総勢725人ものITシステム担当者が集結するイベントはそうそうない。今年3月、システム運用管理大手のビーエスピー(BSP)と兄弟会社のビーコンインフォメーションテクノロジー(ビーコンIT)が開催した「Beaconユーザシンポジウム」は、その希有な例だ。このイベントで登壇したBSP社長の竹藤浩樹は、自分のスマートフォンをポケットから取り出して、壇上から「壮観だ」と写真を撮影した。見下ろす出席者が自社の方向性を決める──。今回ほどそう実感したことはない。(取材・文/谷畑良胤)
「プロダクトアウトでは勝てない」。BSP社長の竹藤が最近よく口にする言葉だ。システム運用管理の負担は、企業のIT利活用が進まない元凶と言う人さえいる。日本企業のIT投資に占める運用管理費は6割以上。“お守り”優先で、戦略的なIT投資に費用が回らない。期せずして、クラウドコンピューティングが普及し、ユーザー側も「持たざるIT」を指向し始めた。運用管理費を減らしながらセキュアなシステムを構築できれば、メリットが大きいからだ。ただ、その波が押し寄せて来れば来るほど、BSPの製品は売れなくなる。3年ほど前まで、竹藤はずっとジレンマを抱えていた。
「ユーザー企業の運用管理面のコスト削減意識はシビアだ」(竹藤)。そんな流れを感じ取り、悩んだ時期もある。考えた末に、「当社は、顧客の話を聞ける会社だ」という結論に行き着いた。Beaconユーザ会などを利用して、聞く耳を高く立て、ユーザーが向かおうとする方向を見定めた。「コンセプトが重要だ」。竹藤はそう感じ、ベンダー都合のプロダクトアウトでなく、システムをデータセンター(DC)へ外出しする動きが高まるトレンドを勘案した「運用レス」というコンセプトを打ち出した。昨年のことだ。極論をいえば、オンプレミス(企業内)とクラウド環境にあるシステムを「完全に自動化する」というメッセージでもある。
それを実現するうえで、BSPは企業の「IT部門の業務価値分析」を徹底的に行った。例えば、通常のオペレーション運用やプログラムの開発・修正は汎用的で、長期間保有する価値が薄い。「この部分は、どんどんクラウド側に移っていく」(竹藤)。一方、クラウド環境を含めたシステム機能全体を効率化する設計分野やサービスマネジメント、ITを戦略的に使うための企画・構想部分は、「競争力の源泉」の部分で、固有的であって外に切り出すことが少ない。

Beaconユーザ会では、運用と開発に関する内容のセッションが行われていた。そのすべての会場にBSPの竹藤浩樹社長の姿があった 運用管理に必要なハードウェアが増えるほど、BSP製品はライセンスを稼げる。クラウドや仮想化でハードが減るから、自社ビジネスに暗雲が立ちこめる──。悩んでいられた時間は決して多くはなかった。明確に意見を具申してくれるユーザー企業がいなければ、「運用レス」というコンセプトは生まれていなかったに違いない。
それでも、今の企業システムの流れは、社内に置かれたシステムがDCに移ったに過ぎない。竹藤は言う。「DCの分を含め、巨大インフラ資産をもたないシステムの運用管理が重要になる」。たとえ話として、こんな例を示してくれた。高級ホテルのシェラトンは、不動産業者が保有するホテル施設を活用して、マネジメントで他社と差異化して高いホスピタリティを追求している。格安航空会社(LCC)も、航空機を保有せずにリースで調達して運行する。航空機を購入したのでは、減価償却を終えるまで、安価な航空券を提供できないだろう。
BSP製品の方向性を決めるのは、「ファブレス(自社設備を保有せず、利用面だけに集中する)という考え方だ」と、竹藤は語る。時代の変化に応じて、迅速に自社コンセプトも変化させる。このことが勝ち残りで重要となる。[敬称略]