あるメディアの「2012年度のICT(情報通信技術)」と題する内訳調査によると、「既存システムの維持・運用」に対する投資が全体の63%に達した。既存システムの“お守”で精一杯で、肝心の経営変革にITを使えない。この状況から逃れない限り、企業のIT投資は伸びない。多くの企業では10年以上もこの状態が続いている。マイグレーションベンダーの筆頭格にあるシステムズは、数年前、この分野に切り込んだ。(取材・文/谷畑良胤)
1969年に「パンチ入力」、いわゆるデータエントリー会社として創業したシステムズ。日立製作所を中心に、主に大手システムインテグレータ(SIer)の下請けとして受託ソフト開発に携わってきた。だが、バブル崩壊を受けて、事業の先行きに限界を感じ始めた。同社に限らず、多くのSIerが突きあたっている壁だ。
だが、先代社長を引き継いだシステムズ社長の小河原隆史は、「受託ビジネスは、大手SIerと一緒に崩壊する」と危機感を抱いて、他社に先駆けて受託開発の将来を見限った。95年には、当時「コンバージョン」と呼んでいたマイグレーション事業を本格的に開始している。
実は、90年頃から個別案件で細々とマイグレーションに関わってきた。当時、某銀行システムの仕事を受けて、マイグレーションを手がけた。ところが「この銀行案件は、予定した性能が出ず、やり直しの連続だった」(小河原)。COBOL環境からオープン系への移行。当時、インドの会社のツールを使って同社の技術力をもってすれば、たやすくこなせるはずだった。だが、結果は顧客に迷惑をかけたとの思いが強く残った。相当悔しかったに違いない。

マイグレーションに関係するシステムズのセミナーでは、小河原隆史社長らがレガシーシステムの再構築を訴える 小河原は「機械変換・コンバージョンとは一線を画する、今までにない新たな分野をつくり上げる」ことを決意した。それが、「パターン分析」などプラットフォームを選ばず、システム全体を移行できる同社独自の技術だ。すでに国内外の特許を取得。「全システムを再構築しないで済み、開発期間の長期化やリスクを回避できる」(小河原)という。
それでも同社の全売上高に占めるマイグレーションの割合は約3割。残りは受託ソフト開発とERP(統合基幹業務システム)、外食・小売業向けパッケージ開発が占める。同社再編のポイントについて小河原はこう語る。「大手ITベンダーの下請けでは、顧客の顔が見えない。顧客と一緒に経営に貢献するITに変革する」。俗人化・ブラックボックス化する企業の情報システム。COBOL言語環境下のレガシーシステムだけでなく、オープン系のサーバーにあるデータも塩漬け状態の環境が多く残っている。これが足かせになり、戦略的なIT投資がままならない。マイグレーションはデータを正確に移行すれば終わりではない。次の展開は、蓄積されて使われずにいるデータを経営に生かす手伝いをすることにある。
都道府県レベルの某自治体が、自治体クラウドにおけるマイグレーション技術の研究開発に着手した。この際に採用されたのがシステムズの分析・移行性検証などだ。この自治体の案件は、メインフレームから自治体クラウド基盤に移行することと、レガシーシステムの機能を踏襲すること。「移行の難易度は高かった」(小河原)が、クラウド化に向けた課題や見通しを明確化できた、と喜ばれた。独自のマイグレーション技術を開発・活用し始めて16年。案件は60社・団体を超えた。「今は、クラウド側にデータ移行する案件が出ている。マイグレーション事業は、右肩上がりの成長が見込める」と、小河原は手応えを感じている。[敬称略]