6月28日付でレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータ(NECPC)の社長に就任したロードリック・ラピン氏が、『週刊BCN』の取材に応じて、トップ交代の背景や新体制の狙い、今後のビジネス展開を明らかにした。社長の一本化は、パソコン市場の急激な変化によって、迅速に経営の意思決定ができる体制が必要と判断して、2012年10月にラピン氏とレノボ本社のヤン・ユワンチンCEOが話し合って決めたという。決して唐突な人事というわけではなく、およそ9か月間、水面下でトップ交代の準備を進めてきたというのが真相だ。ラピン新“総合”社長の下、タブレットを中心とする「PC+(ピーシープラス)」の事業展開に「アグレッシブに取り組み」(ラピン社長)、パソコンとの二本柱で、売り上げの拡大と収益の向上に動く。(ゼンフ ミシャ)
ラピン氏は、レノボ・ジャパンとNECPCの二つの名刺を併用している。1年余りでレノボ・ジャパンの社長に復帰し、外国人社長として初めてNECPCのトップに就任した今回の人事について、「2011年に合弁会社を立ち上げた際に、ロードマップを定めたので、内部からみると決して驚きの人事ではない」と明かす。
経営トップの一本化が決定したのは、昨年の10月だ。日本をはじめ、世界各国でパソコン市場が落ち込んで、タブレットの需要が急速に高まるなか、ラピン氏とレノボ本社のヤンCEOが会議でNECとレノボのパソコン連合の組織について議論を交わした。市場を取り巻く環境の激しい変化に迅速に対応するために、経営トップの一本化が不可欠と判断し、社長交代に踏み切る。渡辺朱美氏がレノボ・ジャパンの社長に就いてからわずか半年後、水面下で経営体制の再編に着手した。
旧体制では、ラピン氏が合弁会社「Lenovo NEC Holdings B.V.」の会長を務め、レノボ・ジャパンの渡辺社長とNECPCの高塚栄社長とともに、スリートップ体制を形成していた。しかし、レノボ/NECの関係者が、「3人がそれぞれの担当領域で決めた方針が会議で合致せず、再度集めて決断を下す必要があるケースが多かった」と語るように、意思決定まで時間がかかり、市場ニーズへの対応が遅れていた模様だ。
ラピン社長は今後、半分がレノボ・ジャパンのメンバー、半分がNECPCのメンバーから成る経営チームを結成して、一人で最終の決定権をもつワントップとして両社を率いていく。「レノボ・ジャパンとNECPCの両社の従業員は、以前から私を日本ビジネスのリーダーとして認めてくれていたので、信頼関係ができている。これからのビジネス展開を問題なく進めることができそうだ」と安心の表情をみせる。
ラピン社長の下で力を注ぐのは、「PC+」と称する、パソコン以外の新しい事業領域の開拓だ。レノボ・グループは、2013年3月期、過去最高の340億米ドル(前年度比15%増)の売上高を記録して、営業利益も8億100万米ドル(同38%増)と過去最高を達成した。こうした好業績の裏には、タブレットやスマートフォン、テレビなど、パソコン以外の製品をグローバルで積極的に展開してきた方針が功を奏していることがある。日本でも製品のポートフォリオを拡大して、パソコン需要の縮小を補うことが急務となっている。
そんな状況にあって、両社は向こう6か月間、タブレットのラインアップを大幅に強化するという。タブレットを中心とする「PC+」事業に力を注ぐことによって、開拓が遅れているSMB(中堅・中小企業)への攻めも加速する。「タブレット活用による業務の効率化を提案し、SMB市場での存在感を高めたい」(ラピン社長)と意気込みを示す。
一方、中国などで展開しているスマートフォンは、日本では当面投入しない考えだ。メーカー間の競争が激しく、キャリアの発言力が強いことが市場参入のネックになっているという。また、NEC本体が再編に取り組んでいる携帯端末事業の買収については「可能性として考えられるが、現時点では決まっていない」(ラピン社長)とコメントし、様子見の姿勢を崩さない。
*ラピン社長へのインタビューは、『週刊BCN』8月12・19日号「KeyPerson」で掲載する予定。 表層深層
パソコン市場が急速に縮小するなかにあって、レノボ・ジャパンは、「PC+」事業をいかに拡大するかが、成長のカギを握る。法人向け分野で有望株となりそうなのは、レノボ本社が2012年8月に発表した米EMCコーポレーションとの提携によるストレージの展開だ。
レノボ・ジャパンは、この7月、提携の第一歩として、EMCの「Iomega(アイオメガ)」ブランドのNAS(ネットワーク対応ストレージ)を、レノボ製品として販売することを明らかにした。パソコンだけではなく、ストレージも提供することによって、販売パートナーにとって提案の幅が広がり、受注につなげやすくなる。
これまで慎重だったサービスの展開にも乗り出す。デバイスやOS(基本ソフト)を問わず、簡単でセキュアにクラウド上のデータにアクセスすることができるツールとして、「Lenovo Reach」を発表した。今年後半にローンチするという。
サービスを含む「PC+」の事業拡大に必要なビジネス基盤をいかに迅速に築くのか。包括的な権限を与えられたラピン社長の経営スキルに期待がかかるところだ。(ゼンフ ミシャ)