パソコン事業で提携し、2011年7月1日付で合弁会社の「Lenovo NEC Holdings B.V.」を設立したレノボ・ジャパン(出資率51%)とNECパーソナルコンピュータ(NECPC、同49%)は、急ピッチで利益率の向上に取り組んでいる。Lenovo NEC Holdingsは、レノボ本社がパソコン連合による利益向上の加速化を求めていることを受け、ロードリック・ラピン会長の下、レノボ・ジャパンとNECPCの共同体づくりを推進中だ。近々、両社のオフィスを統合して相互連携を強めるほか、総務や経理など一部のリソースを融合してコスト削減を図る。IT業界に衝撃を走らせたレノボとNECのパソコン連合から1年。利益向上を迫られているLenovo NEC Holdingsの直近の動きをみる。(ゼンフ ミシャ)
今年4月にレノボ・ジャパンのトップに就任した渡辺朱美社長は、「レノボ本社は、パソコン連合による相乗効果をより迅速に発揮することを強く要求している」と明言した。連合から1年、レノボ本社が利益向上の加速化をはっきりと求めていることがみてとれる。7月4日に開催した記者会見で、Lenovo NEC Holdingsのロードリック・ラピン会長は、提携の成果として、2012年度に「NEC レノボ・ジャパン グループ」が売上高を11%伸ばしたことを明らかにした。しかし、NECとレノボのパソコン連合の中核的な目標ともいえる利益の向上については、まったく言及していない。NECPCの高塚栄社長は本紙に対して「見込んだレベルは達成した。この1年で、今後さらなる向上につながる状況になった」とコメントし、改善の余地があることをほのめかした。
レノボ・ジャパンとNECPCの共同ビジネスを統括し、レノボ本社への仲介役となるLenovo NEC Holdingsは、利益率の向上を図るために、今年前半、グループの組織再編に踏み切った。4月にレノボ・ジャパンの社長交代を実施し、渡辺新社長がレノボ・ジャパンでオペレーションの指揮を執るようになった。一方、これまでホールディングスの会長とレノボ・ジャパンの社長を兼務していたラピン氏は、Lenovo NEC Holdingsの会長としての活動に集中するよう、ホールディングスに軸足を置く体制を築いた。こうした再編を踏まえてLenovo NEC Holdingsは、週1回、ラピン会長とレノボ・ジャパンの渡辺社長、NECPCの高塚社長が3人で経営戦略会議を開いており、経営層から現場の社員まで、両社人員の相互連携を強化している。
NEC レノボ・ジャパン グループ

NECPCの高塚社長は、近々、両社のオフィスを統合することを明らかにしている。同氏は現在、週2日はホールディングス、3日はNECPCのオフィスに詰めているが、社長をはじめ、社員も1週間をフルでレノボ・ジャパンの社員と同じ場所で仕事ができる環境をつくる。ラピン会長は「共同オフィスはどこにするかは未定」としているが、NECPCの高塚社長は、「以前から、(レノボ・ジャパンが本社を構える東京・六本木の)森タワーにスペースを借りている」ことを明らかにしているので、森タワーに共同のオフィスを設ける可能性が高い。両社はオフィスを統合するだけではなく、人事や総務、経理などのリソースを融合することも検討している。リソースの融合によって、利益向上に寄与するコスト削減を図るわけだ。
さらに、レノボ・ジャパンは8月中旬までに、法人向け製品のサポート受付窓口の業務をNECPCに移管する。昨年10月に個人向けコールセンターをNECPCに委託したのに加えて、NECのサポート体制の活用を法人ビジネスにも適用する戦略だ。
また、生産に関しても、NECのリソースを生かす方針。今秋、「NECPC米沢事業場(米沢工場)」で、レノボ「ThinkPad」のコンシューマ向け機種のパイロット生産を開始する。米沢工場での生産は、中国など海外で生産するよりもコストが高くなるが、レノボ・ジャパンの課題であるコンシューマ市場の開拓に向け、日本での生産によって販社/ユーザーの信頼を得るための取り組みと考えられる。
レノボ・ジャパンとNECPCは、2012年度の共同シェアが過去最高のレベルに拡大したと発表。連合の2年目に入り、シェアを伸ばしつつ、より高い収益を捻出しようとしている。
表層深層
NECパーソナルコンピュータ(NECPC)は、NECのグループ会社でありながら、非連結対象となっており、売上高や営業利益などの数字を公開していない。同社は、Lenovo NEC Holdingsの100%子会社として、業績はレノボの決算の一部として扱われている。そのため、「この1年で利益率がどのくらい向上したかは、NECPCとして、具体的な数字を公表することができない」(NECPCの広報部)という。
ホールディングスのラピン会長、レノボ・ジャパンの渡辺社長、NECPCの高塚社長は、毎週月曜日にミーティングを開き、3人で共同ビジネスの方針を決定している。ラピン会長に3人の力関係についてたずねたら、「重要な事項は平等な立場で決定している」と答えた。また、高塚社長は、「共同ビジネスの方針に関して3人ともスタンスが一致している」と、経営トップの一体感をアピールしている。
高塚社長は、「課題といえば、自分の英語力かな……」と苦笑する。ラピン会長は英語が母語で、日本IBM出身の渡辺社長も、IBMの米本社に赴任した経験があって、英語が流暢だ。高塚社長は、自分の意見を主張するために、英語力を磨かなければならないと感じているようだ。英語力云々はエピソードの一つだが、会社の歴史や社風が大きく異なるレノボ・ジャパンとNECPCが一体になって共同でビジネスを展開するのは、決して容易なことではないということがよくわかる。