「大きなニュースだよね。これでNECはPC事業の経営権を奪われてしまうのではないか」。6月18日、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータが両社の社長交代を発表した日、『週刊BCN』編集部の記者の間で、こんな会話を交わした。

　共同でパソコン事業を手がけるレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータは、社長の一本化によって経営のスピードアップを目指し、6月28日付で経営の組織を再編した。レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長とNECパーソナルコンピュータの高塚栄社長がともに退任。そして、これまで両社の持ち株会社であるLenovo NEC Holdings B.V.の会長を務めたロードリック・ラピン氏がレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの両方の社長に就任する体制を築いた。

　レノボに在籍し、2008年10月から12年3月までの期間もレノボ・ジャパンの社長を務めたラピン氏が、NECパーソナルコンピュータのトップに就くことになったのだ。

　2011年にパソコン事業を本体から切り離して、Lenovo NEC Holdings B.V.を設立し、レノボと共同で事業を展開してきたNECにしてみれば、「経営権を奪われた」という見方をするのは無理からぬところだ。今後、ラピン社長の下で、NECパーソナルコンピュータの“レノボ色”が強くなり、NEC側が経営の意思決定から少しずつ外される可能性は十分にあるとみるのが自然だろう。

　Lenovo NEC Holdings B.V.は、レノボが51％、NECが49％を出資している。合弁会社をつくった際、レノボはNECが保有する株式を5年後（2016年）にすべて取得することができるというオプションをつけた。今回の社長交代と合わせて、NECがもつ株式の取得時期を早める交渉に入るのか。

　レノボが「レノボ×NEC」の最大の目的としているのは、日本のコンシューマやSMB（中堅・中小企業）の市場開拓に不可欠なNECのブランドとサポート体制を手に入れることだ。コンシューマやSMBは、「中国のパソコン」なら警戒するが、「NECの製品」と聞けば購入しても大丈夫という心理が働く。レノボがNECのパソコン事業を完全に吸収し、NECという看板がなくなれば、逆効果だ。

　そう考えると、NECはレノボにとって、今後も切り離すことのできないパートナーになる。しかし、別々の経営体制が、思い切って事業拡大と収益向上に向けた策を打つにあたって、足かせになっていた。今回の人事によって、レノボとNECの共同ビジネスで、パソコンメーカーで世界2位までシェアを伸ばしているレノボの影響力は、間違いなく強くなる。NECが経営権を奪われたとしても、共同ビジネスの拡大につながるのなら、NECにとっても得るものは大きいとみてもいいのではないだろうか。（ゼンフ ミシャ）