米IBMのオフコン「AS/400」は、日本国内に多く現存する。マイグレーションベンダーのシステムズは、大型案件で「AS/400」のデータ移行を手がけた際、文字列変換で変換漏れを起こしたことがある。顧客の要望は、「旧世代のシステムの機能をそのまま新しい仕組みに移行する」というものだった。同社社長の小河原隆史は「マイグレーションは簡単ではない」と、失敗をきっかけにこの分野を極めることを選んだ。以来16年間の実績は、大手企業60社超。この段階で中堅中小企業(SMB)での足場固めに乗り出した。(取材・文/谷畑良胤)
システムズは、自社の強みをこう説明している。「移行にかかるコストを大幅に抑え、旧システムの資産をほぼそのまま(80%以上)活用する。システム変更に伴うSE(システム・エンジニア)の教育費用・期間もほとんどかからない」。マイグレーション市場で競合となるのは、NECや富士通、IBMなど汎用機を大量に販売してきたメーカーの直系販社か系列販社だ。「まともに勝負したら勝てない」(小河原)が、メーカー系は自社製汎用機から自社製オープンシステムへの移行を勧める。
ユーザー企業側からみれば、もう少し選択肢がほしい。他社製も含めたクライアント・サーバー(C/S)型のオープンシステムやクラウドへの移行を希望する。システムズはマルチベンダーだ。どんなインフラでもマイグレーションしてしまう。だからこそ、「独自の分析手法を生み出し、変換品質を高め、移行に伴うプロジェクトのマネジメント力も他社に負けない仕組みをものにした」(小河原)わけだ。
同社のマイグレーション案件は、1社あたり数千万円から数億円に達する。ほぼすべてが元請け案件で、システム開発後には、事後の運用などで常駐する。例えば、ある大手運輸会社の案件では、「本番環境への切り替え時に並行稼働期間を取らないでやってほしい」との要求を受けた。これに対してシステムズは、パターン分析技術を使い、移行品質を可視化することで、テストケースの最適化や稼働品質の確保を実現している。移行品質と異言語の対応ができている同社だからこそできた業だ。

レガシーシステムは国内の企業内に多く存在するが、保守・運用負担が大きくて柔軟性に乏しく、マイグレーションの必要性が高まっている(写真と本文は関係ありません) マイグレーション事業を軌道に乗せる一方、同社では業務管理を統合的にサポートできるようパッケージを整備してきた。自社開発の小売店向け「顧客管理システム」やレストラン向けパッケージ「千客万来」がそれだ。最近では、マイグレーションした案件に付随し、既存のプログラムリソースなどを生かしてSAPなどのERP(統合基幹業務システム)を連携させ、価値あるデータにする。すそ野の拡大と主力事業の横展開を図っているのだ。
これまでは、こうした大手企業の案件に力を入れてきた。だが、「将来、大手企業の汎用機は一巡する。残っていても10年程度だろう」と小河原は予測する。そのため、領域の拡大に懸命だ。その策として、一つは「データ可視化のニーズはオープン系でも存在する」と判断して、既存事業の延長線上に新ビジネスを描く。もう一つは、SMB向けだ。簡易なマイグレーション技術を磨いている。将来的には海外展開するグローバル企業の案件獲得がみえてくる。
企業システムはクラウドへと進化している。最近始めたのが「クラウド化コンサルティングサービス」だ。独自の「マイグレーション・メソッド」を適用して、既存システムの診断、企画・設計、導入の各フェーズ別にサービスやコンポーネントを提供している。「レガシーをマイグレーションする」分野から既存システムを可視化し、経営革新に生かすデータにして返す。システムズが生きる道はもう明らかになっている。[敬称略](つづく)