【北京発】NEC中国(日下清文総裁)は、都市機能をICT(情報通信技術)で統括管理するスマートシティ(中国語で「智慧城市」)の事業展開を本格化する。10月にも中西部地区の重慶市で子会社の「NEC重慶」を設立し、市政府と連携して重慶のスマートシティ化に取り組んでいく。先行して中国各地の市政府と緊密な関係を築いてきたIBM中国との協業にも乗り出す。IBMのコンサルティングなどに指紋・顔認証を中心とするNECのセキュリティ技術を付加して、スマートシティ案件を共同で展開する。中国は都市化が進んでいて、スマートシティへの投資が急拡大中だ。NEC中国は、2014年には1兆元(約16兆円)を突破するとみて、現地に密着する体制を築くことによって、市場開拓に力を入れる。(ゼンフ ミシャ)

NEC中国の日下清文総裁「日本のパートナーには、もっと積極的に中国に進出してほしい」 NEC本体は今年4月から「社会インフラ」と「アジア」をビジネスの重点領域に掲げており、その一環として、中国でのスマートシティ展開に力を入れている。今年度に入って、海外で初の事業部として、アジア各国で展開するセキュリティソリューションを中心に開発する「グローバルセーフティ事業部」をシンガポールに設立した。NEC中国も直接この事業部にレポートする報告ラインに切り替えて、「中国のニーズを迅速に開発に反映できる体制をつくった」(NEC中国の日下清文総裁)という。
中国でNECが展開するスマートシティ商材は、防災や物流、エネルギーなど、都市の幅広い領域を統括管理するシステムだが、コアとするのは、指紋や顔を認証したり、年齢・性別を識別したりするセーフティ(治安)関連の技術だ。中国では、人口の急速な増加や都市部への流入に戸籍管理が追いつかず、空港や街なかで、身分証明書やパスポートではなく、顔や指紋などの画像によって本人確認を行う仕組みへのニーズが旺盛なことが背景にある。
NEC中国は、都市化に向けた政府のIT投資は毎年17%前後の率で成長し、2014年に1兆元(約16兆円)を超えると予測。とくに都市化が活発な内陸部でスマートシティの需要が高いと捉えて、内陸部の各政府に対しての提案活動を加速する。「市街地にセンサを設置して、怪しい人物がいないかどうかを監視する」(日下総裁)機能を全面に打ち出し、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによってNECの強みを訴求する狙いだ。
NEC中国は10月をめどに、現地拠点を立ち上げ、市政府と密に連携しながらソリューション開発を進める“IBM方式”を採用して、中西部地区にある重慶市に子会社を設立する。今年4月にスマートシティ分野で重慶市と締結した戦略的なパートナーシップを本格化するための取り組みだ。セーフティを中心として、市政府とともに重慶のスマートシティ化に取り組んでいく。日下総裁は、「最終的に受注金額を3ケタの億にしたい」と意気込みを示している。
中国ビジネス独自の取り組みとして、スマートシティの先駆者であるIBM中国との共同展開にも動いている。IBM中国のコンサルティング力や政府との強固な関係を生かし、IBM中国が弱みとするセーフティの領域をNEC技術で補うことによって、両社にとって単独ではハードルが高い大規模案件の獲得を目指す。IBMとのスマートシティの共同展開は斬新な取り組みで、中国以外でもスマートシティの普及につなぐモデルとして注目される。
両社は現在、「どの都市をターゲットにし、それぞれの商材をどのように組み合わせるかについて商談を進めている」(日下総裁)段階にあって、急ピッチでスマートシティの共同展開の実現に取り組んでいる模様だ。
NEC中国は、IBM中国以外にも、提案やシステムの構築・運用を手がけるパートナーの獲得に力を注ぐ。今後のスマートシティ需要を見込み、「日本のパートナーにもっと積極的に中国に進出し、現地のニーズに対応できる体制を整えてもらいたい」(日下総裁)と、日本のシステムインテグレータの行動を促す。同社は、スマートシティをエンジンとして、中国ビジネスの売り上げを現在の約750億円から、2015年度(16年3月期)までに1000億円に引き上げることを目標に掲げている。
表層深層
北京首都国際空港で入国検査を行うカウンターに、ユニークな装置が設けられている。「よい」や「よくない」などのボタンを備え、検査員の態度や作業の速さを気軽に評価することができるものだ。空港は、集めたデータを分析し、サービスの改善に生かす。提供元は不明だが、この仕組みは、北京が目指しているスマートな都市の一つのコンポーネントとして興味深い。
中国の人々は、経済成長に伴って海外に旅行することが多くなっており、海外で経験した街の安全性や便利さを中国国内でも強く求める傾向にある。
そんななかにあって、各地の市政府は都市インフラや市民向けサービスの改善を喫緊の課題としており、スマートシティへの投資を重視するようになっている。国内だけをみているシステムインテグレータの多くにとって、スマートシティは自社に関係ない抽象的な概念かもしれないが、中国に目を向けると、実際のビジネスチャンスとして目に見えるものになっている。
空港やオフィスビル、港湾、福祉施設など、中国では都市のあらゆる場所でICTの活用が進んでいる。自社がスマートシティの商材をもっていなくても、大手ベンダーが提供するソリューションの周辺で、構築や運用のニーズが必ずみつかる。そんな情勢にあって、日本のシステムインテグレータには、中国でスマートシティの商機をつかみ、積極的に市場開拓に参加することが求められる。