NEC(遠藤信博社長)は、「2015中期経営計画」を発表し、社会インフラとアジアの事業に力を注ぐことによって、2015年度(16年3月期)に3兆2000億円(12年度=3兆716億円)の売上高、1500億円(1146億円)の営業利益を目指す方針を明らかにしている。5月1日付で、借入によって1300億円の資金を調達し、社会インフラの技術開発や海外での拠点づくりを中心とする先行投資に使う。「2015中期経営計画」をベースにして、体制・製品ポートフォリオの両面で、ICT(情報通信技術)活用による企業・社会の課題解決が求められる時代に備え、国内外での提案活動にテコ入れする。また、時期については断言しないが、早期に営業利益を5%に、海外売上比率を25%に引き上げることに取り組んでいく。(ゼンフ ミシャ)

4月26日に、東京・大手町で「2015中期経営計画」の概要を語る遠藤信博社長。社会ソリューション事業への大型投資によって、営業利益を5%に、海外売上比率を25%に引き上げる決意を示した 4月26日に発表した「2015中期経営計画」では、ICT活用による社会インフラ事業に経営資源を集中すること、アジアに注力して現地主導型でビジネスを展開することの二つを成長戦略の柱に定めている。これらを支えるために、1300億円を借り入れて、SDN(ソフトウェアによるネットワーク構築)やスマートエネルギーなどの技術開発、海外での体制構築に投資する。
社会インフラ関連のソリューション提案を行う組織として、「パブリック」「テレコムキャリア」「エンタープライズ」「スマートエネルギー」の四つのビジネスユニット(BU)から構成される「社会ソリューション事業」を新設した。各BUで営業と技術の部隊が一体となって、ハードやソフトを組み合わせた垂直統合型システムをはじめとするプラットフォーム製品などを業種ごとにワンストップで提案していく。調達資金1300億円のうち、約1000億円を社会ソリューション事業に投じる計画だ。
クラウドやSDNを技術基盤として、データ分析と将来予測によって、企業・社会が抱える課題の解決につながるソリューション展開を掲げる。ハード・ソフトの提供に加え、コンサルティングを中心とするサービス商材も強化し、買収などによって必要なリソースを入手していく。新・中期経営計画の最終年度となる15年度には、社会ソリューション事業が売上高全体の70%を占め、営業利益率8%(全社目標は5%)という構成を目指す。海外での事業展開とも連携し、社会ソリューション事業を、NECをけん引するビジネスに位置づけている。
アジアでは、現地市場を開拓するための体制づくりを進めている。アジア諸国に密着する組織として、シンガポールに「グローバルセーフティ事業部」を新設し、4月に営業を開始した。この事業部は、指紋・顔認証やビデオ監視といったソリューションのプリセールスを行うほか、アジア各地域での拠点が迅速な提案ができるよう、バックで支援する。遠藤信博社長は、「拠点をしっかり置く」として、今後もアジアでの体制を強化する方針を示している。
遠藤社長は、これまでの海外ビジネスについて「大きく反省している」と、無念そうな表情を見せる。
海外での販売体制が不十分で、現地のニーズに応えた提案ができなかったことが原因で、12年度は、海外売上比率の目標に掲げていた25%に対して16%にしか届かなかった。目標未達成もあって、海外事業は赤字が続いている。そんな状況下、今回の中期経営計画をもとに、新しい体制でアジア市場をよりアグレッシブに攻めることによって、15年度までに海外事業の黒字化を目指すという。
しかし、新・中期経営計画では、海外売上比率の目標をはっきりと定めていないことが気になる。遠藤社長は、「早急に25%を実現したい」としているが、時期については明言を避けている。アジアを中心とする海外ビジネスをいかに早く拡大し、明確な数値で予測することができるかが新しい中期経営計画の成否を決める。それだけに、NECの海外での今後の動きが注目される。
表層深層
NECの動きは、IT業界全般へのインパクトが極めて大きい。同社は、250社以上の子会社を有しており、数多くの販売店やパートナーと提携しているからだ。
NECグループのなかでも、NECネッツエスアイが有力なプレーヤーである。同社は、ネットワーク構築などを手がけており、2013年3月期の売上高は2357億円だ。社長の和田雅夫氏は、「親会社の新しい中期経営計画を受けて、当社も社会インフラの事業に力を入れていく」と明言する。
直近では、とくに消防防災関連の受注が増えているそうだ。今後、NEC本体と密に連携し、親会社と一体になるかたちで、消防防災事業のシェア拡大を狙う。社会インフラを柱の一つとして、15年度までに売上高を2600億円に引き上げることを計画している。
NECの販売パートナーも、NECの新しい方針に合わせて、新規ビジネスを開拓する準備を進める必要がある。NECは、とくにアジアの市場開拓を掲げているので、各地域で、現地企業のニーズに適した提案が求められる。NECが海外売上比率を高めるにつれ、販売パートナーも海外での積極的な活動がますます重要になるのだ。
ライバルの富士通は、パソコン出荷台数の大幅な減少見通しが、事業拡大のネックとなっている。パソコン事業を本体から切り離したNECは、今回の中期経営計画を踏まえ、富士通に一歩先駆けて、ITサービス事業者への変貌を遂げようとしている。