NECが社会インフラ関連のビッグデータ活用に、活路を見出そうとしている。新規事業の重点領域の一つに位置づけて、クラウドとSDN(Software Defined Network)に並ぶ将来の柱に育てる。同社が「世界トップレベルの技術力」と自負する分析エンジン技術を生かす用途を見つけるつもりだ。はたして、再生の切り札になるのか。
IT企業にとっての新規市場に
NECは、このほど、中国電力の島根原子力発電所で実証実験を行っていた「大規模プラント故障予兆監視システム」の有効性を確認したと発表した。設備状態監視用センサの情報を解析し、過去の不具合事例の情報を照らし合わせて、故障の予兆を検出するものだ。島根原子力発電所の点検訓練用施設に試験導入し、さまざまな故障を人為的に発生させて、設備の故障予兆の検出を実験していた。
NECは、昨夏以降、こうした実証実験に積極的に取り組んでおり、その数は30件近くになる。分析技術の開発と効果を把握して事業化に役立てるためで、その一つが大規模プラントの故障予兆監視システムというわけだ。このシステムは、近く商品化する。道路や橋、トンネルなどの老朽化が大きな社会問題になっており、異常の予兆検知は、災害をなくし、社会コストの負担軽減にもつながる。
同社によると、発電所や工場などから、自社の大規模プラントに取り付けた各種センサから刻々と入ってくるデータを収集・分析して、事故を未然に防止したいという要望が増えているそうだ。新東名高速道路では、すでに約6500のセンサを道路上に設置して交通量を計測し、気象情報も組み合わせてドライバーに提供しているという。
こうした社会インフラにビッグデータを活用する領域は、IT企業にとっての新規市場になる。IT企業は、電気やガス、水道、交通など、社会インフラ関連の情報システムを数多く構築してきたが、設備にセンサを取り付けてデータを収集・分析し、予測に本格的に使う方法は、緒に就いたばかりだ。NECで、ビッグデータの戦略立案や共通技術の研究、商品化などを担う事業イノベーション戦略本部ビッグデータ戦略室の荒井匡彦シニアエキスパートは、「従来のIT市場ではない分野で、成長の伸びしろが大きい」と期待する。
NECの技術力が生きる市場
NECの遠藤信博社長は、4月下旬に発表した13年度が1年目の中期経営計画で、ITを活用した社会インフラ事業に経営資源を集中することを明らかにした。「社会課題の解決を成長機会と捉えて、新しいビジネスモデルを確立する」として、新たな価値を提供する事業の検討を開始した。
実際の事業運営には、13年4月に設置した新野隆副社長の直轄組織であるビジネスイノベーション統括ユニットがあたる。同ユニットの傘下組織として、ビッグデータの事業化に取り組む事業イノベーション戦略本部ビッグデータ戦略室に約20人のスタッフを配置した。ビジネス拡大の兆しがみえているクラウドやSDNに比べて、ビッグデータ関連の陣容は少ないものの、その応用範囲は広いだけに、取り込めれば大きく成長できる可能性がある。
荒井氏は、ビッグデータ事業におけるNECの優位性を「データを集めるセンシング技術から基盤、ミドルウェア、分析エンジンまでのアセットをもっている」と説明する。なかでも、データから法則、規則性を見つけ出す分析エンジンは、異種混合学習(大量データ中のまったく異なるパターンや規則を自動で発見)、テキスト含意認識(二つの文が同じ意味を含むか否かを判定)、インバリアント分析(データの相関関係を自動発見して、「いつもと違う」挙動を発見)、行動分析(特定の人・モノの位置情報履歴から今後の行動を予測)、顔画像解析(画像のなかから自動的に顔を検出し同一人物を特定)の五つをもち、「世界トップレベルの技術力」(荒井氏)だという。
これら分析エンジンを使いこなせる専門家の育成も欠かせない。現在、統計学と分析技術を有する分析エキスパートと、統計学と業種ノウハウをもつドキュメントエキスパートを育てている。目下のところ、前者が約50人、後者が約60人在籍しているが、いずれは合わせて200人程度に増強する計画。ユーザー企業との連携も必要だ。先の中国電力のケースでも、中国電力の電力プラント運用専門家とNECの分析専門家が密に連携した結果、ビッグデータの活用に効果を引き出した。
同時に、インバリアント分析技術を使った予兆管理など、ビッグデータの活用領域をいくつかに絞り込んでいる。そこで成果を上げた後、海外や企業へと応用を広げる。無闇に手を広げるのではなく、人材や技術という経営資源を特定分野に集中する。それが成功への道筋になる。
【今号のキーフレーズ】
社会インフラのビッグデータ事業は、過去のIT市場とは異なる成長領域だ。