NEC(遠藤信博社長)と米EMC(ジョー・トゥッチ会長兼CEO)は、映像分析分野においてグローバル規模で協業する。街なかや施設に設置したIPカメラで撮影した映像情報をEMCの大量データ対応ストレージ「Isilon」で保存し、NECが得意とする顔認証技術などを活用してリアルタイムに分析する。セーフティ(安全)の向上に取り組んでいる海外の政府機関を中心に、NECが販売・構築を手がけるかたちで、2014年にも提案活動を本格開始する構想だ。NECは、06年に米EMCと戦略提携を結んでおり、「Isilon」の国内トップ販社だ。今回の取り組みによって、海外でのセーフティ事業の売上高を13年3月期の300億円から、17年度までに1000億円に引き上げる。(ゼンフ ミシャ)
来年にも提案活動を開始
NECは、今年度の下期(10月1日から)がスタートして間をおかずに、映像分析分野での提携について米EMCとの交渉を詰めてきた。そして、このほど提携の合意にこぎ着け、これからアクションプランを作成して、来年にも共同ソリューションの提案活動を本格的に開始する。
両社は、スケールアウト型NAS(ネットワーク対応ストレージ)で、拡張性にすぐれるEMCの「Isilon」と、顔認証などNECがもつバイオメトリクス(生体)照合技術を組み合わせて、街なかや施設内の安全を保つための映像分析ソリューションとして展開していく。IPカメラで撮影し、「Isilon」で保存する大量の映像データを、NECの技術によってリアルタイムで分析。そして、不審物や不審者、異変などを発見した場合はすぐにアラートを出すなど、ビデオデータを安全の向上に生かす仕組みだ。
ストレージを中核とするソリューション商材の強化に取り組んでいるEMCは、2012年に、ビデオ監視市場に参入した。「Isilon」に他社のIPカメラや映像データ処理ソフトを追加し、映像分析・活用の基盤として、EMCからセットで提供している。日本法人のEMCジャパンも、今年7月に販売を開始し、国内での提案活動に取り組んでいる。
今回、NECがEMCの映像分析基盤を用いて、自社技術をつけ加えるかたちでソリューション展開するのは、大量のビデオデータの「活用」を商材化し、ストレージの拡販を期待できるパートナーシップとして、初の事例となる。
海外の政府機関に売り込む

NEC
原田典明
シニアエキスパート 急ピッチでビジネスの再編に取り組んでいるNECにとって、今回の提携は一石二鳥となる。EMCジャパンは、今年1月に「Isilon」事業をパートナー向け支援プログラム「Velocity」に統合して、販社を増やしている。そしてNECは、高度な映像分析技術を武器に、増えつつある競合との差異を明確にしようとしている。
また、映像分析ソリューションは、経済成長につれて都市の安全確保が難しくなり、しかもデータ活用に関しての法的規制が比較的緩い新興国を中心として、海外市場を開拓するための有望商材にもなるだろう。NECはこれから、アジアや南米、中東など、ターゲットとなる地域を決めて、内務省や国防省に相当する各国の政府機関のほかに、プラントやデータセンターといった重要インフラ施設を運営する事業者に提案していく。
海外での展開にあたって、課題になっているのは、販売モデルの構築だ。NECはサービス事業の強化の一環として、自社で映像分析ソリューションの販売・構築を手がけたいと考えて、「システムインテグレータのような役割を目指している」(事業イノベーション戦略本部ビッグデータ戦略室の原田典明シニアエキスパート)と、販売の主役を担うことに意欲を示している。ただし、EMCが各国でもっている「Isilon」の現地の販売店との“共存”をどう図るかはまだ明確になっていない模様だ。
また、魅力的な市場である中国については、NECは社会インフラ分野で「IBM中国と手を握って、共同でビジネスを展開しようとしている」(原田シニアエキスパート)という。ストレージ分野では競合となるIBM中国とのパートナーシップへの悪影響をどのようにして防ぐか──。ここは知恵の絞りどころだ。
国内でも徐々に展開

EMCジャパン
羽鳥正明
マネージャー NECは、今回のEMCとの共同ソリューションを中核商材として、海外でのセーフティ関連事業の売上高を、13年3月期の300億円から、17年度までに1000億円に引き上げることを目指している。原田シニアエキスパートは、「今年度は、売り上げが計画通りに伸びている。しかし、まだまだ勢いが足りない。1000億円を達成するためには、さらにドラスティックな取り組みが不可欠になる」と捉えている。今年4月にシンガポールに設立した「グローバルセーフティ事業部」と密に連携しながら、サービス開発や販売体制に関して、徹底したテコ入れを図っていくという。
NECとEMC/EMCジャパンは、海外を中心に映像分析ソリューションの市場を開拓するのと同時に、国内でも徐々に事業展開に取り組もうとしている。
EMCジャパンで「Isilon」を担当するアイシロン事業本部事業推進部の羽鳥正明マネージャーは、「6か月や1年間と長期間のビデオデータ保存がルール化されているデータセンターを主要なターゲットとして、映像分析ソリューションをアイシロン事業の柱の一つにしたい」という考えを示している。
表層深層
映像データを分析し、街を安全にするソリューションを提案する際に、最も大きな障壁となるのは、顔認証など、個人を特定する情報をどこまで使用していいのかなどを定める法規制だ。日本はプライバシー重視の方針を取っており、現時点では情報活用関連のレギュレーション(規制)が厳しい。そのため、NECは規制が比較的緩い海外を映像分析ソリューションを主要市場と捉えている。
米国では今、映像データの活用に関して、ITベンダーにとって興味深い動きが現れ始めている。メーカーのショールームやイベント会場などで映像を撮って、来場者はどんな製品に関心を示したり、どういう動き方をしているかなど、人の行動をリアルタイム分析し、マーケティングに生かすというものだ。
このように、監視ではなく、製品・サービスの改善や利便性の向上といった消費者のメリットを切り口にして、映像分析ソリューションを提案すれば、国内でもビジネスチャンスが見込めると考えられる。