EMCジャパン(山野修社長)は、スケールアウト型NASを展開するアイシロン事業の販売戦略を刷新した。今年1月に、アイシロン事業をパートナー支援プログラム「Velocity」に統合し、アイシロン製品の販社が、Velocityで提供するプリセールスや技術サポートといった支援を受けることができる体制を築いた。Velocityへの統合によって、以前から支援プログラムに参加している販社は、新たにアイシロン製品を販売することも可能になった。EMCジャパンは、こうした取り組みを踏まえ、2011年に買収したアイシロンの販売体制を大幅に強化して、ビッグデータ処理で需要が高まっているスケールアウト型NASの市場開拓を図る。(ゼンフ ミシャ)

田所隆幸 本部長 EMCジャパンアイシロン事業本部の田所隆幸本部長は、「製造業や金融業の企業のほかに、コンテンツ制作やライフサイエンス、医療、公共といった分野の開拓に力を入れて、アイシロンのNASをEMCジャパンの中核製品に育てていきたい」との意気込みを示す。
米EMCコーポレーションが2011年に買収したアイシロンは、日本のスケールアウト型NAS市場で56%というトップシェアを握っている(2011年、TSR調べ)。しかし、ストレージ市場全体でスケールアウト型NASが占める比率はまだ低く、EMCジャパンはこれまでの販売体制では十分に市場のニーズに対応できなかったことが、販売戦略刷新の動機になったという。
EMCジャパンはこれまで、SCSK、図研ネットウエイブ、テクマトリックス、東京エレクトロン デバイス、ブロードバンドタワー、丸紅情報システムズの6社を「アイシロンパートナー」として、製品を提供してきた。この6社は、EMCが買収する以前からアイシロン製品を販売してきた。買収が完了した後、EMCジャパンで彼らのサポートを手がけてきたのは、アイシロン事業本部だ。
しかし、およそ30人の営業・事業推進メンバーで構成するアイシロン事業本部は、リソースが限られている。事業本部レベルでのパートナー支援の限界を感じたという。そんな状況にあって「アイシロンの販社をEMCジャパンが全社で支援することを目指して、1月にアイシロンの新製品を発売した機会に合わせて、販売パートナーをVelocityに組み込んだ」(田所本部長)と経緯を語る。
1月14日付の統合によって、旧「アイシロンパートナー」6社は、プリセールスや技術サポートをはじめとするVelocityの充実した特典を受けることができるようになった。アイシロン製品を単体で売るだけでなく、他のEMC製品と組み合わせて販売することも可能となる。さらに、以前からVelocityプログラムに参加していた1次販売店/2次販売店(約90社)は、新たにアイシロン製品を取り扱うことができるようになった。「すでに数社はアイシロン製品の販売に手を挙げている」(田所本部長)というように、Velocityパートナーのなかでもアイシロンに高い関心をもつ企業が多いようだ。
EMCジャパンは、アイシロンのVelocityへの統合を踏まえて、今年中に、特定の業種に特化する「インダストリーカット」、ユーザー企業の業務改善を図る「ワークフローカット」、地方市場を開拓する「地域カット」の三つの切り口で製品展開をするための体制を築いていく。田所本部長は、「現状のVelocityパートナーだけで市場をフルにカバーすることはできない」として、医療や公共など特定の業界を強みとするパートナーを新規で獲得する構えだ。
EMCジャパンのアイシロン事業は、2012年、前年比で売り上げが45%増を果たしたという。しかし、販売が好調とはいえ、販社は他社との差異化を図ったり、利益を確保するために、アイシロン製品にいかに独自のサービスを付け加えたりするかが問われている。今回のVelocityへの統合によってアイシロンを取り扱う販社が増えるわけだから、販社間の競合が強まるのは必至だ。そんな状況にあって、旧「アイシロンパートナー」の6社は、今回受けるようになったVelocityの特典を生かしながら、自社の強みをより明確に打ち出して差異化を図ることが求められている。
表層深層
数年前からアイシロンの有力販社になっている東京エレクトロン デバイスは、既存ビジネスに「プラスα」の価値をつけることを方針に掲げている。
同社は、今年4月に始まる2013年度に、アイシロンのスケールアウト型NASに加え、非構造化データを取り扱うために最適な「オブジェクトストレージ」の分野に参入。ストレージ製品のポートフォリオを拡充する。東京エレクトロン デバイスの栗木康幸社長がオブジェクトストレージ分野への参入を決めたのは昨年末だ。アイシロン製品で販社間の競争が強まることを先読みして、早めに対策を打ったのだ。
EMCジャパンの田所隆幸本部長は、「保守をはじめとする導入後のサービスを提供することによって、販社には他社との差異化を図ってほしい」と述べる。メーカー側としても、販社が独自性を打ち出し、サービスの提供を促しているという。
情報の「活用」が経営に結びつく“ビッグデータ時代”には、販社の役割がますます重要になる。EMCジャパンもそう判断して、アイシロンをVelocityに統合したと考えられる。今のところ、ストレージは単体でも売れる可能性が高い。しかし、中長期的にみれば、独自サービスの追加は不可欠となる。サービスによって、どのようにユーザー企業のビジネス改善を支援するか。販社にとっては知恵の絞りどころだ。