【遼寧省・瀋陽市】
遼寧省随一の大都市
コストメリットと市場潜在力の両輪
瀋陽市は遼寧省の省都で、戸籍上の人口は約720万人。瀋陽市からクルマで1時間内に移動できる範囲に、およそ2500万人が生活しているとみられ、市場としても大きな潜在力をもっている。交通に関していえば、日本からは東京・大阪・名古屋から直行便が出ており、国内の主要都市とも陸路・空路で結ばれているのでアクセスがよい。
瀋陽市のIT産業の動向――マーケットとしての魅力あり
瀋陽市は、大連市と同水準のIT産業規模を誇る。中国工業情報化部によると、2012年1~9月の瀋陽市のIT産業売上高は、大連市のそれを5億元上回る666億9000万元となっている。瀋陽市の南部には開発区(渾南新区)があり、開発区を管理している中国・瀋陽市東陵区(渾南新区)瀋陽渾南国際新興産業園区管委会の銭海雲主任は、「開発区の生産高の約8割をIT関係企業が産出している。約300社のIT企業が入居している」と説明する。BPOやソフト開発、ECなど、入居企業が手がけているITビジネスは多岐にわたる。
瀋陽市は、IT人材の供給量が豊富で、大連と比較すればコスト安。瀋陽国際軟件園(SISP)の趙久宏董事長兼総裁は、「瀋陽市には約1万5000人のIT従事者がいる。瀋陽市に本社を置くIT企業では、大手の東軟集団(Neusoft)が有名だが、実は中小ベンダーが大半を占めている。地場IT企業の80~90%は、中国国内向けのソフト開発を手がけている」と説明する。人材コストは、「大連と比べておよそ7割のレベル」(同)という。
また、コスト安だけでなく、瀋陽市は市場としても高いポテンシャルを秘めている。瀋陽市からクルマで1時間内に移動できる範囲に、およそ2500万人が生活しており、地場産業として設備・製造業があるので、ITを利用するユーザー企業が多い。瀋陽市には、中国国内向けのソフト開発を手がける地場IT企業が多く、日系IT企業からすれば、東北地域を開拓するためのパートナーを探しやすい環境ともいえる。

(写真左から)銭海雲 主任、趙久宏 董事長兼総裁進出企業がみる瀋陽市――コスト安に依存してはいけない
インターネット広告配信サービスを手がけるマイクロアドは、09年に中国現地法人の微告科技(瀋陽)を設立した。約40人の社員が親会社のシステム開発・保守を手がけている。瀋陽市を選定した主な理由はコストだ。邴非総経理は、「拠点を設けるにあたっては、大連と瀋陽を検討した。調査をしたところ、大連では単純な人件費だけでなく、不動産価格も高騰していて、トータルの生活コストで負荷がかかることがわかった。一方、瀋陽は不動産の価格も中国の2級都市のなかでは安く、従業員に安心して勤めてもらうことが期待できるので、こちらを選んだ」と説明する。

(写真左から)邴非 総経理、菅原一夫 総経理 ただ、コストメリットはあるとしても、人件費の上昇は避けられない。NTTデータ・ビーンの中国現地法人で、データエントリーサービスを主な事業としている恩梯梯数据必易恩(中国)信息技術の菅原一夫総経理は、「上海や北京に比べれば低コストではあるが、それほど安くはなくなってきている」という。そのため、恩梯梯数据必易恩(中国)信息技術では、コストではなく、品質に重点を置いた。データエントリーサービスは、エントリー結果の統一性を高めるために、最大で6段階のチェックを行うなど、高品質を保っている。

恩梯梯数据必易恩(中国)信息技術では、高品質なデータエントリーサービスを追求昨対比8倍の売り上げを目指す――TNISの機転を利かせた営業戦略

多田智紀
董事長兼総経理 東芝ソリューション(TSOL)と東軟集団の合弁会社で、瀋陽に本拠点を置く瀋陽東芝東軟情報システム(TNIS)は、13年度(13年12月期)の売上高として前年度比約8倍にあたる5000万元を目指している。今年1月に就任した多田智紀董事長兼総経理は、「達成できる見込み」と自信ありげだ。
好調の要因は、新たな営業戦略だ。TNISでは、上海や北京など主要都市に営業担当を駐在させて、東芝グループのITシステム支援と、TSOLのソリューションを中国市場で展開することを中核事業としている。しかし、合弁会社を設立した11~12年にかけては、「業績は上がらなかった。中国語や保守の問題があって、日本のソリューションを説明・導入できる技術者を育てるのにも時間がかかる。日本でつき合いがあるTSOLのお客様の中国工場にソリューションを提案しても、すでに導入済みのケースがほとんどだった」(同)。
そこで、TNISが目をつけたのが、中国で調達できる商品を中国の企業に販売するビジネスだ。「中国の日系企業をたくさん回って気がついたことは、サーバーやパソコンの更新などの小型案件のニーズはあるということだった。そこで、小さな案件からスタートして、信用と顧客基盤をつくることに励んだ。これがネットワークやロードバランサなど、少しずつ大きな案件につながって、業績を押し上げている」(同)。コア事業の立ち上がりが遅いとみて、成長事業としてもう一つの軸足を立てることで、会社の収益を支えることに成功したのだ。多田董事長兼総経理は、「16年度には、全体の売り上げを13年度の3倍にすることを目指したい」と意欲をみせている。
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