中国中西部に位置する四川省成都市は、中国内陸部のなかで、世界から最も注目を集めている都市だ。アウトソーシングサービスを主力の産業に据え、新しい製品・サービスの開発に積極的なITベンダーが多い。市は人材育成にも積極的で、多くの企業を誘致して、とくに中小企業を成長させるための取り組みに力を入れている。欧米企業と比べると現地の日系企業の数は少ないが、進出すればビジネスチャンスをつかむことができる都市の有力候補といえるだろう。成都市の特色を、現地取材をもとに探っていく。(取材・文/佐相彰彦)
今後10年で最も早く成長
中国内陸部で注目の都市
四川省は、面積、人口、経済規模など、内陸部で最大規模の省である。その省都が成都市だ。中国で副省級都市に位置づけられ、9区4市6県を管轄している。面積は1万2100km2、人口は約1400万人。市の中心を取り巻くように環状道路の建設が進んでいて、周辺地域との高速道路や鉄道網の整備も進行中だ。貨物物流など空運は、全国においても上位に入る。ビジネス環境も整っており、フォーチュン500社のうち238社が成都に進出している。今後10年で世界で最も早く成長する都市として、中国内陸部で最も注目されている都市の一つだ。成都市商務局の李皓副局長は、「海外の企業が成都市に進出するのは、発展の可能性があると判断しているからだ」と説明する。
金融機関がデータセンターを成都市に設置するケースが多くみられ、多数の欧米企業が進出して工場や研究開発拠点などを設置している。アウトソーシング拠点として活用する例も多く、「毎年40%前後の増加を遂げている。今後3年間では倍増を見込んでいる」と、李副局長は自信をみせる。
日系企業の進出状況はどうか。欧米企業と比べると低調で、成都市のベンダーとパートナーシップを組むケースもそれほど多くない。しかし、IT関連では中国第4位を誇る開発区の成都高新技術産業開発区(高新区)があるだけでなく、400社あまりの企業が集結する天府軟件園(天府ソフトウェアパーク)なども整備されていて、ソフト開発産業の観点からいえば、かなりの有力都市だ。成都市商務局服務貿易処の呂媛副処長は、「今後は、IT産業の発展に向けて、海外企業の誘致を促進するための環境を整える」との方針を示す。海外から多くの企業を受け入れて、ますます大きな成長を遂げようとしているのだ。

(写真左から)成都市商務局 李皓副局長、
成都市商務局服務貿易処 呂媛副処長
【成都市の産業】活発化する成都市のIT産業
新しいイノベーションの創造も
成都市は、重点産業の拡大に力を入れて成長を遂げようとしている。主力アウトソーシング関連を継続して伸ばしていくほか、中国でトップレベルの規模を誇る開発区にオフィスを構える企業を生かして産業を発展させるなど、成長への手法はさまざまだ。新しい産業の拡大に向けた取り組みも進んでいる。

中国でトップレベルの規模を誇る成都高新区
中国第4位の高新技術開発区
大手から中小まで2万社が集結

成都高新区管理委員会
発展企画局
湯継強局長
成都市高新区は、3大主導産業としてIT産業、バイオ産業、精密機械製造産業、6大産業クラスターとして、IC(集積回路)、光電ディスプレイ、ソフト&アウトソーシングサービス、電子端末機器製造、生物医薬、精密機器製造アウトソーシングを重点産業に据えている。最近は、モバイルインターネット関連を主力産業にすることも掲げており、「3+6+1」「3+7」などと称して産業発展に力を注いでいる。
成都市が「3+6+1」「3+7」などの産業形成を実現しているのは、成都高新区の存在が大きい。中国の国家級高新技術開発区として認定されて、1988年に設立。面積は約130km2と決して広くはないが、財政収入は251億元に達し、四川省全体の10%を超えている。世界のトップ企業500社のうち、130社ほどが高新区に進出。このほか、約1万6000社の中小零細企業、2000社の中小技術系企業が高新区にオフィスを構えている。大手企業を合わせると約2万社が高新区に集結。中国で第4位、中西部で第1位の開発区としての地位を確立している。
成都高新区管理委員会企画局の湯継強局長は、「産業集積地として多くの企業がオフィスを構えていることに加え、政府が各産業を理解しているというのも発展している理由」と語る。とくに、IT関連では人材育成の強化に積極的だ。「産業発展に最も重要な人材育成に力を入れているのは大きなポイント」としている。
日本企業については、欧米企業と比べて進出しているケースが少ないことから、「高新区でさまざまな優遇策を用意している。ぜひ進出してほしい」と期待を込める。
中小企業の成長が産業発展のカギ
新市場の拡大に向けて多額の支援も
約1万6000社に及ぶ多くの中小技術系企業が集結している高新区ではあるが、課題もある。「いかに中小企業を大きく成長させることができるかどうかが、さらなる成都市の発展につながる」と、イノベーションセンターに位置づけられる成都高新区技術創新服務中心の李崗主任は指摘する。そのため、優遇策として中小技術系企業が事業を展開できる場所の確保など、「さまざまなサービスを提供している」という。ユニークな企業を誘致して、成都市でイノベーションを創造するのが狙いだ。
また、新しい産業を発展させるという点では、最近になって力を入れ始めているモバイルインターネットの拡大だ。成都高新区ソフトウェア産業推進室の周智副主任は、「モバイルインターネットには将来性があるので、10億元の予算を確保して、今年から支援活動に取り組んでいる」という。モバイル向けのウェブブラウザやモバイルアプリを開発するベンダーに対して、一定の基準をクリアした際に補助金を提供する。重点産業を拡大する力を成都市はもっているわけだ。

(写真左から)成都高新区 技術創新服務中心 李崗主任、
成都高新区 ソフトウェア産業推進室 周智副主任
アウトソーシングが強み
2012年に市場が445億元に

CASS
徐潔事務局長
成都市は、IT産業の分野で10の国家級基地に指定されており、中国西部で最も競争力のあるIT産業集積地としても注目を集めている。ほかの地域と比べて競争力が高い産業の一つがソフト&アウトソーシングを中心としたアウトソーシング関連だ。年を追うごとに大きな市場を形成してきている。成都アウトソーシングサービス協会の徐潔事務局長は、「2006年から発展し始めたアウトソーシング産業は、今では市場規模が昨年の時点で445億元に達している」と説明する。成都市内でアウトソーシングを主力事業として手がけるベンダーは約1000社。多くの企業がアウトソーシング関連事業を手がけていることに加えて、政府がアウトソーシングへの支援を手厚くしたことも市場の拡大につながった。
アウトソーシング分野では、海外からの受託にも力を入れており、最も取引額が大きいのは米国だ。徐事務局長は、「最近になって、日系企業が沿岸部でのリスクから逃れるために内陸を視野に入れている。現段階では、日本は米国と比べると受注額は低いものの、日系企業から開発を受託するなどパートナーシップを結ぶことには、非常に関心が高い」という。
[次のページ]