【武漢発】中国中部最大の都市、武漢には、中央政府が認定した国家級のハイテク開発区がある。日中友好条約を締結した1978年には、日本の田中角栄首相が中国の周恩来国家主席に贈った78本の桜が植えられるなど、日本人には馴染みやすい土地だ。この開発区では、数百のハイテク企業が進出するなか、日本のITベンダーの誘致が活発化している。教育機関が集積し、人件費が安く、中国中心部にあって交通の便もいいこの土地は、日本のITベンダーに有益な地であることは間違いない。現地を取材をした。(取材・文/谷畑良胤)
湖北省の省都 武漢市
中国屈指のモデルハイテク開発区

武漢市の王漢軍
招商四局副局長
武漢を流れるアジア最長の河、揚子江に架かる橋梁の設計は、その7割を同市に本社を置く鉄四院や中国船舶設計院などの設計会社が手がけた。武漢市には、橋梁や船舶、道路などの設計会社が集中し、関連するCAD/CAMなど設計関係のシステム会社が集積したことによってIT産業が発展した。
武漢市には国家級開発区が三つある。その一つ「武漢東湖国家級高新(ハイテク)開発区」は、2009年に中国で2か所だけの「モデルハイテク開発区」に認定された。この中にIT集積地の武漢光谷軟件園(OVSP、武漢光谷ソフトウェアパーク)がある。武漢市の王漢軍・招商四局副局長は、OVSPを中心に「ITアウトソーシング(ITO)、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)など、IT関連のアウトソーシングの売上高は2010年で407億元(約6105億円)に達し、前年に比べて45%成長した」と実績を語り、日本からの委託業務を含め、年々急成長していることをアピールする。

東湖開発区の王意舒
招商局副局長
最大の特徴は、この開発区に42の大学があり、80万人の学生が通うことだ。人材供給量が豊富で平均賃金水準も、上海の半分。王副局長は「現地法人設立に関する多くの優遇策がある」といい、とくに日本のアウトソーシング会社の誘致に積極的だ。
武漢光谷ソフトウェアパークは、中国唯一の光電子情報産業基地(中国光谷=中国光バレー)と呼ばれている。日本メーカーとしては、光ファイバー大手のフジクラなどが拠点を構えている。誘致担当の王意舒招商局副局長によれば、「昨年は米国のシリコンバレーと技術連携する契約を交わした」とのことだ。世界で消費する光ファイバーケーブルの7割が中国で敷設されているため、米国側でも共同研究に興味を示している。「新しいIT技術を研究する拠点として環境が整っている」(同)と、誘致を呼びかけている。
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