【遼寧省・丹東市】
新興ソフト開発地域
低コストで自社に合ったIT人材を育成
丹東市の経済規模は大きくはないが、現在、丹東駅から南西にある新城区で新たな開発区を建設中で、今後の経済発展が期待されている。2013年11月末時点では、日本との直行便はない。丹東に行くためには、上海や北京などからの乗り継ぎが必要。現在、瀋陽・丹東間、大連・丹東間の高速鉄道を建設中で、中国国内でのアクセスは向上する見込み。
丹東市のIT産業の動向――産学官が密接に連携
IT市場規模はそれほど大きくはなく、人材の供給量も潤沢ではない。今まさにIT産業を発展させていこうとしているところだ。大連や瀋陽と比べて人件費が安いというメリットを生かして、BPOやソフトウェア開発の拠点としての誘致を進めようとしている。その第一弾として、13年11月19日、市の南西にある新城区に、新たなソフトウェアパーク「丹東天賜国際軟件園」がオープンした。劉永総経理は、「対日オフショアや対韓オフショアを手がけるIT企業を中心に活用してもらいたい」としている。パークの開園式では、かつて大連市の副市長を務めていた丹東市の戴玉林書記が挨拶。「15年前にわずか1棟のビルから始まった大連のソフト産業も、今では1000億元規模に成長した。丹東市が第二の大連となることを願っている」と期待度の高さを表した。

(写真左から)劉永 総経理、劉中華 教授 丹東市のIT産業の強みについて、他地域からの企業誘致を推進している丹東市中小企業局任春杰副局長は、「市政府とパーク、教育機関が密に連携して、人を育てられることだ」と説明する。例えば、大連のソフト開発企業と丹東市の教育機関が連携して、データ入力やシステム開発案件の一部を学生の実践学習として安価で委託しながら、自社にあった人材を育成できる。育成した人材を将来採用すれば、即戦力となる。IT関連の教育を行っている丹東市の職業大学、遼寧機電職業技術学院の劉中華教授は、「学校としても、学生の技術力を向上できる。丹東市の情報産業のブランド化のためにも有効だ」と意欲的だ。任副局長は、開設したパークについて、「14年末までに50社に入居してもらい、1億元を生産してもらうことが目標」としている。

11月19日に開園した丹東天賜国際軟件園進出企業がみる丹東市――まずはBPOで活用

王振宇 総経理 開園式の後には、丹東市内のホテルで丹東の大学・専門学校やIT企業と、視察に来た各地域のIT企業とのマッチングイベントが開催された。東軟集団や大連拓思科技、瀋陽神州数碼、中軟国際(信華)など、大連や瀋陽のソフト開発企業の担当者が多数参加し、丹東市への関心の高さをうかがわせた。
イベントには、すでに新しくできたソフトウェアパークに入居している企業も参加していた。そのうちの一つで、大連に本社をもつ大連安普諾克信息技術の王振宇総経理は、ソフトパークの活用法について、「データ入力などのBPOの拠点として活用している」と説明する。大連安普諾克信息技術は、約110人の従業員を抱え、対日オフショア開発を事業の50%ほど手がけているものの、「まだ丹東市の人材は、高度なソフト開発に耐えうる技術者は少ないとみて、BPOに的を絞っている」(同)状況だ。
丹東天賜国際軟件園の劉総経理によると、「すでにパークに入居しているIT企業は7社あるが、このほとんどがBPO目的で活用している」という。パークとしても、最初は低コストを強みとするBPOとしての活用で大連などのIT企業と関係を構築し、丹東市のIT人材の技術力の底上げを図ったうえで、対日・対韓オフショアのソフト開発としての活用を進めていく考えだ。劉総経理は、「丹東市の価格競争力は今後10~15年はもつだろう。その間に価格競争力から技術競争力への転換を図っていく」との考えを示した。
北朝鮮の人材を活用!? 国境地域ならではの強みを発揮

任春杰 副局長 丹東市や丹東天賜国際軟件園は、丹東のIT産業に強みをもたせるために、丹東市が国境地域であるという特徴を生かして、北朝鮮のIT人材を活用する取り組みを検討している。
丹東市中小企業局任春杰副局長は、「北朝鮮には、10歳の時から専門的な教育を受けた約10万人の優秀なIT技術者がいる。そして、北朝鮮の大学を出た人材であれば、中国の修士課程を取得した人材と同じくらい優秀だ」と説明する。そこで、北朝鮮の人材を丹東市に呼び寄せて、安価で高品質なソフト開発を実現しようというのだ。丹東天賜国際軟件園の劉永総経理によると、「北朝鮮から来た人材は、生産性が中国人の1.5倍にもなる」という。国の威信をかけて出稼ぎに来た北朝鮮の人たちは、一日に14時間もの長時間労働をこなすというのだ。
ただ、対日オフショアの案件の一部を北朝鮮の人材に委託するとなれば、セキュリティや倫理的な問題が発生することになる。これについて劉総経理は、「北朝鮮の人材を活用するかしないかは、企業の判断次第。北朝鮮の人材の利用を推奨するわけではない」と説明する。また、人件費がさらに安い北朝鮮の人材を大量に活用すると、丹東市のIT人材の平均給与が低下する恐れがあるので、「現在は検討段階。2国間での調整が必要なので、これから具体的な施策としていく予定」(任副局長)という。
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