【吉林省・長春市】
優秀な人材を輩出する産業集積地
アジアの代表的な地方IT都市へ
長春市は吉林省の省都として、六つの区と三つの市、一つの県を管轄している。戸籍上の人口が760万人強、市の中心部に400万人弱が生活している。省内の政治、経済、文化の中心地として位置づけられる。自動車をはじめとした重工業が活発化しているほか、人口の半分近くが営む農業も盛ん。外資系企業の誘致にも積極的だ。
長春市のIT産業の動向――目指すは“シリコンバレー”
長春市では、政府が2010年に専門のチームを発足させるなど、サービスアウトソーシングの活性化に向けた取り組みが進んでいる。チームの主任である、長春市商務局長春市経済技術合作局の任宏雷副局長は、「現在、長春市には500社程度のソフトウェア開発企業が存在している。優秀な人材を輩出するための施策、企業の誘致を積極的に行うことによって、サービスアウトソーシングを産業の柱に据えていく」という方針を示す。
具体的には、IT企業やベンチャー企業が点在する長春国家高新技術産業開発区でマネジメントなど高いスキルが揃うベンダーや起業を目指す人材に支援措置を講じる。毎年、平均1億元の資金を用意する。長春国家高新技術産業開発区ITOアウトソーシング産業発展推進室の孫祥玉副主任は、「シリコンバレーを目指している」と表明する。
誘致の面では、長春市の北側に新しいソフトウェアパークを建設する構想があって、北京の中堅企業を入居させようと計画している。「実現すれば、ソフトウェア開発企業が現状の2倍の1000社に増える」と、任副局長。アジア諸国の代表的なIT地方都市になることを目指している。

(写真左から)任宏雷 副局長、孫祥玉 副主任進出企業がみる長春市――拠点の役割がますます広がる

王左鵬 副総経理 トヨタ自動車が、中国大手自動車メーカーの中国第一汽車集団との合弁で四川一汽トヨタ自動車を設立して長春工場を稼働させているなど、長春市では日系企業が活躍している様子がうかがえる。一方、ITの分野では日系企業が拠点を置くケースはまだ少ない。しかし、トヨタが拠点を構えていることから周辺のサプライヤーが多く、日系IT企業にとっては製造業のユーザーが多く存在する地区でもある。
また、すでに長春市に拠点を置いている大手SIerはメリットを享受しているようだ。NTTデータの中国法人、無錫NTT DATAはニアショア開発先として長春分公司を2011年9月に設立。長春分公司の王左鵬副総経理は、「今では社員が300人にまで増えている」とアピールする。加えて、5年以内に800人にまで増員することを計画。増員することができるのは、「労務コストが安いから」(王副総経理)という。市政府が企業誘致に力を入れていることからも、長春分公司が構えるオフィスの費用は市政府からの支援でほぼゼロに等しい。また、社員の給与は上海や北京、大連などと比べて低い。さらに、優秀な人材を採用できる可能性が高い。王副総経理は、「将来はニアショア開発だけでなく、ユーザー企業から直接案件を獲得するビジネスも手がけていきたい」との考えを示している。
日本企業からの受注獲得へ 人材を育成する学校の併設も
日系IT企業はまだ少ないとはいえ、長春市にはソフトウェア開発企業が500社と決して乏しいわけではない。しかも、企業規模の拡大や売上増を果たしている企業が多い。
長春六元素科技は1年ほど前の設立で、現在の社員数は約100人。「来年には200人規模にまで増やす」と、宋毅強総経理は自信をみせる。同社は、日本市場向けに銀行や証券会社、保険会社などの業務システムを開発。日本語を話せる社員が多く、日本にも事務所を構えている。日本で営業、中国で開発というビジネスサイクルを構築している。加えて、日本市場向けのソフトウェア開発を生かして中国市場向けに経理会計システムなどを提供。営業の地を広げながら成長している。

高新区内にある国家文化産業示范基地として認められている施設には多くのIT企業が入居している 日本企業からの受注獲得という点では、ウェブ制作などのBPO、システム設計開発のITO、モバイル関連の開発を手がける海和グループは、「ウェブサイトのバナー広告に関しては日本企業からの受注ばかり」(馮筠淞社長)という。ウェブサイトのバナー広告に携わるスタッフがデザインだけでなく日本語1級を獲得してるスキルをもっているからだ。大連を本拠地としているが、長春に拠点を置いているのは、コスト安が理由だ。
人材育成に力を入れているのは、サービスアウトソーシングを主力事業として手がける長春聯迪斯納欧軟件(sunao)だ。2011年に設立し、優秀な人材が揃っていることで受給できる「優秀人材導入金」によって、「高新区から10万元の資金をもらった」(柴麗董事長)という。オフィスにはグループ会社の専門学校を併設し、社員や学生がスキルを高めるためにトレーニングや研修に励んでいる。「来年の売上高は、今年の2倍の規模を狙う」との見通しを立てている。

(写真左から)宋毅強 総経理、馮筠淞 社長、柴麗 董事長
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