【吉林省・延辺朝鮮族自治州】
バイリンガルの人材を生かす
韓国企業とのアライアンスも
延辺朝鮮族自治州は、吉林省の東部に位置し、東側がロシアの極東地区、南側が図們江を隔てて北朝鮮の咸鏡北道と両江道に接している。面積は、4万2700km2で吉林省の約4分の1にあたる。人口は、218万3000人程度で朝鮮族が35%強を占める。年間の平均気温は6度で四季が明確。長白山のミネラルウォーターなど水資源が豊富。州都は延吉市。
延辺朝鮮族自治州のIT産業の動向――IT企業集約で新ビジネスを創造
広大な面積のなかに複数の山がそびえ立ち、森林被覆率が約80%、豊富な水資源や多くの野生動植物、地下鉱山にも恵まれているのが延辺朝鮮族自治州だ。食品やエネルギー資源、旅行などが主要な産業になっているが、今、産業の柱の一つとして確立させようとしているのがIT関連である。国家レベルに位置づけられている延吉国家高新技術産業開発区で、ある施設をIT関連のイノベーション/インキュベーション基地とするリニューアルを進めており、この高新区内に点在するIT企業に対して入居を促しているほか、海外からの企業誘致に取り組んでいる。現段階で15社、年末までに30社が入居する計画だ。近い将来には60~80社に達する予定。延辺朝鮮族自治州商務局の呂継副局長は、「集約したIT企業が連携し、今まで以上に細かいサービスの提供を実現する」としている。延吉国家高新技術産業開発区管理委員会の金花副主任は、「ハードウェアとソフトウェアを含めたIT関連の受け皿としての環境を整え、海外、とくに日本からオフショア開発を請け負う体制を構築する」との考えを示している。

(写真左から)呂継 副局長、金花 副主任 延辺に拠点を置いて現地採用に取り組んでいる企業の強みは、中国語に加えて韓国語を身につけた社員が揃っていることだ。さらに、大学などで英語や日本語などを専攻し、社会人になれば3か国語が話せる人材も多い。IT企業に身を置いたバイリンガルの人材が交流して新しいサービスアウトソーシングを創造し、世界に広めていくというのが延辺朝鮮族自治州が目指している姿だ。

現在、IT関連のイノベーション/インキュベーション施設としてリニューアル中(写真は11月下旬時点)進出企業がみる延辺朝鮮族自治州市――延辺から中国内の案件を獲得

李永春
副総経理 神奈川トヨタ自動車から分離独立して、情報システムの構築やアウトソーシングなどが主要ビジネスのシンポー情報システムが、海外拠点として選んだ地は延辺朝鮮族自治州だ。2005年8月設立の神豊信息=シンポー情報システム(延辺)は、トヨタグループから受注するオフショア開発を手がけていることに加え、中国政府が推進しているGPSを駆使したIT関連製品・サービスの開発にも携わっている。李永春副総経理は、「40人を超える社員のほとんどが吉林省出身で2か国語が話せる人材が多い。延辺朝鮮族自治州を選んだことに間違いはなかった」としている。
しかも、上海や北京、大連などと比べると延辺は、オフィスの賃借料をはじめコストが安い。そのため、「人材派遣などでは、中国の他地区に比べて料金を低く設定できる」という。しかも、スキルが高い人材を派遣しているので、取引先の評価は高い。受注案件が増えていて、2013年は黒字の見通しだ。
韓国と中国をつなげる 中国内のビジネスに着手

元鐘鶴 経理 延辺朝鮮族自治州は、北朝鮮や韓国と近いこともあって、韓国企業が拠点を置くことが多い。IT関連でも、ウェブなどで使われるデザインコンテンツの販売やホームページの制作を手がける阿欺達(アサダル)が延吉阿欺達科技開発を設立。韓国で受注した案件のオフショア開発としての役割を果たしている。オフィスは、延吉国家高新技術産業開発区でリニューアル中のイノベーション/インキュベーション施設。元鐘鶴経理は、「韓国語を普通に話せる人材ばかりなので、韓国とのコミュニケーションはまったく問題ない」という。しかも、日本語を話せるスタッフも多く「東京・新宿にあるオフィス(営業拠点)との密なコミュニケーションで取引先の要望にも迅速・柔軟に応えている」。韓国と日本のハブとして役割を果たしているわけだ。
同社は、設立から5年ほどがたっている。これまではオフショア開発拠点として機能してきたが、「次のステップとして、中国現地の企業から案件を獲得する」という方針を示している。今は準備段階で、「これまで技術者を中心に採用してきたが、営業担当者の採用を増やしていく」という。延辺は中国語と韓国語が話せる人材の宝庫だ。延辺の地から中国市場を対象としたビジネスに着手して、アサダルグループが大きく成長する可能性は十分にある。