「データセンター(DC)事業で後発だからという理由で、エヌシーアイに注文した」。健康診断など、法人・個人に対しての健康サポートを手がける一般財団法人日本予防医学協会(神代雅晴理事長)は、エヌシーアイのプライベートクラウド基盤「ZETA Cloud Private」を採用し、健診のオンライン申し込みなど、各サービスのクラウド環境を統合した。統合環境をインフラとして、受診者の健康情報や生活習慣に関するデータを収集・分析して、ガンをはじめとする病気の予防につなげていく構想だ。
【今回の事例内容】
<導入機関> 日本予防医学協会1960年に設立。2013年に一般財団法人の許可を得た。企業や個人に対して、各種健康診断の提供や検診システムの構築などを手がける
<決断した人> ICT(情報通信技術)本部担当 上田元久 常務理事外気を空調に使う石狩DCの低電力コストに魅力を感じ、「ZETA Cloud Private」の導入を決めた
<課題>健康診断のオンライン申し込みなど、各サービスのクラウド基盤を構築したDCが分散していたので、運用・管理の負荷が課題
<対策>クラウド基盤を統合し、各システムを乗せていくことによって、運用・管理を一元化
<効果>運用・管理の負荷を減らすほか、統合基盤を活用して、データの収集・分析に取り組む
<今回の事例から学ぶポイント>インフラの統合はあくまで第一ステップ。インフラを生かして新サービスの創出につなげることが重要だ
最新の設備を評価して採用を決定
日本予防医学協会は1960年に設立された。スタッフや機材、検診車などを派遣する「巡回型健診」や、全国およそ2000の医療機関のなかから最適な所を案内する「個別健診」などの各種健康診断をはじめ、法人・個人向けの健康サービスを提供し、国民の健康づくりを支えてきた。
健康診断のオンライン申し込みや受診者へのアンケートなど、ウェブ上のサービスが動くクラウドシステムはこれまで、「そのつど開発した」(上田元久常務理事)という。利用するDCが分散し、それぞれのシステムを運用・管理する負担が課題になっていたのだ。
上田常務理事は、ICT(情報通信技術)本部担当を務めている。クラウドの基盤を統合して、運用・管理の一元化によって管理者の負荷を減らしながら、コスト削減につなげるために、複数の事業者のプライベートクラウドサービスを検討していた。

東京・江東区にある本部内に、付属診療所「ウェルビーイング毛利」を設けている。受診者の健康に関わるあらゆるデータを分析し、生活習慣病の予防を徹底していく 採用したのは、日商エレクトロニクスの子会社であるエヌシーアイが提供する「ZETA Cloud Private」だ。北海道・石狩DCのほかに、横浜と大阪にあるDCにシステムのバックアップ環境をつくっている。震災などによって、一つのDCが被害を受けても、データを失うことなく、システムの運用を継続することができる。
2012年にクラウド事業に参入したエヌシーアイは、DCでは後発のプレーヤーだ。上田常務理事は、「提案を受けたエヌシーアイの営業担当者は『弊社は後発です』と正直に言ってくれて、『だからこそ、最新の設備をもっている』と技術力に自信を示した。であれば、後発であることがプラスになると私は判断し、エヌシーアイのサービスを念入りに検討したうえで、昨年末に導入を決断した」と語る。
中堅・中小の病院にも提供
導入の決め手になったのは、「ZETA Cloud Private」のマルチDC対応だ。
「北海道の気候を生かして、外気を取り入れた空調システムによってエネルギーコストを抑えている石狩DCに魅力を感じた」(上田常務理事)ことに加え、横浜と大阪にもDCがあることに安心感を覚えたという。日本予防医学協会は東京・江東にある本部のほかに、名古屋や大阪に拠点を置いている。震災発生のリスクが低いとされる石狩DCを利用しながら、「近くにもDCがあって、何かあったらすぐに駆けつけることができるので安心」(同)というマルチDC対応によるメリットを享受することができるわけだ。
日本予防医学協会は、現在、システム移行に取り組んでおり、2月に稼働開始を予定している。まずは、オンライン申し込みなど、フロント系のシステムを統合環境に移すというスモールスタートから始まる。しかし、「決して、それで終わりではない」と上田常務理事は強調する。
将来、進めていくのは、「ZETA Cloud Private」をインフラとして活用し、受診者の健康情報や生活習慣に関するデータを収集・分析し、ガンをはじめとする生活習慣病の予防に生かすということだ。さらに、予算が限られていて、自分でインフラを用意することができない中堅・中小の病院にもインフラを提供し、新しい健康サービスの創出につなげることを目指していくという。
ライフスタイルの多様化に伴って、個人に適した健康サービスの提供が求められる時代になった。日本予防医学協会は、ITをフル活用して時代のニーズに応えようとしている。(ゼンフ ミシャ)