作業服や作業グッズを販売する専門店チェーンを運営するワークマン(栗山清治社長)は、「勘で決定する」経営から、「データで決定する」経営に切り替えようとしている。ビッグデータの活用によって、経営のスピードと効率性を高め、インフレ時代に強いビジネス体制の構築を狙いとしている。データ分析を踏まえて需要を予測し、商品の自動発注を行う三井情報のソリューションを導入した。今後は、このシステムを使って流通経路を再設計し、店舗スタッフの発注作業の負荷を軽減していく。
【今回の事例内容】
<導入企業> ワークマン作業服や作業グッズを販売する専門店チェーン。設立は1982年。全国に約710店舗を展開している。従業員数は220人(2013年3月現在)。群馬県伊勢崎市に本社を置く
<決断した人> 土屋哲雄 常務取締役社内で分析チームと実行チームを立ち上げ、ビッグデータ活用のプロ集団を目指す
<課題>商品の発注作業を社員のノウハウや勘に頼ってきたことから、欠品や過剰在庫が発生していた
<対策>ビッグデータ活用によって需要を予測し、自動的に発注するソリューションを導入
<効果>適正な発注が可能になり、欠品や過剰在庫を防ぐことができるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>データ活用を経営方針に掲げて、時代の変化に対応し、効率のよいビジネス展開を目指すことが大切
決定するのはヒトではなく、データ
「いらっしゃいませ~」。作業ズボンや手袋、長靴などを陳列した商品棚がずらりと並ぶワークマンの店舗。ロゴ入りの黄色いエプロンをつけたスタッフは、訪れた客に明るく声をかける。
全国一律で100坪の面積をもつ店舗を仕切るスタッフの仕事は、なかなか大変だ。接客の合間に、1日約150社のベンダーに約8000アイテムを発注しなければならない。発注作業に追われて、余裕をもった接客ができない──。そんな事態に陥らないように、ワークマンは三井情報のソリューションを入れて、ビッグデータの活用に乗り出している。
ワークマンは、デフレが続いたここ数年の間、順調に業績を伸ばしてきた。2014年3月期の全店売上高見込みは約677億円で、前年同期比6%のプラスとなる。商品構成の標準化や値引きをしない価格設定など「原則を堅守する」(土屋哲雄常務取締役)という経営方針を貫いて、デフレ時代に適合するかたちでビジネスを展開してきた。
しかし、ワークマンの経営陣は、アベノミクス効果によってインフレが進むだろうと先読みし、社員のノウハウや勘に頼って発注する体制を課題と捉えた。発注をヒトに依存すれば、会社としての動きが鈍くなるだけではなく、商品の欠品や過剰在庫のリスクがつきまとうからだ。
そこで、ワークマンが決断したのは、ビッグデータを活用し、客観的で迅速に発注ができる方式に切り替えることだった。ITを駆使することによって、「データ経営」の実現を目指し、適正な発注で収益の向上につなげようとしている。導入した「需要予測・自動発注ソリューション」は、独自のアルゴリズムによって需要を予測して、推奨発注数を算出するものだ。
ソリューションは、オープンソースの統計解析ツール「R」を使って開発した需要予測エンジンと、NTTデータ イントラマートが提供している「intra-mart」を基盤とする自動発注エンジンで構成される。ワークマンの過去の受発注データや在庫データの解析によってちょうどいい発注量を算出し、欠品や過剰在庫を防ぐ仕組みだ。
導入の決断を後押ししたのは、流通コスト面で確実にメリットが生まれると、経営陣がみたことだ。ワークマンは、西日本での配送時間を短縮するために、群馬県伊勢崎市にある既存の流通センターに加えて、滋賀県竜王町に流通センターを新設した。東西の2センターに分けて発注するので、発注件数と発注量算定業務は2倍になったわけだ。その対応策として大金をかけて人員を倍増するか、それとも……。ワークマンが解決案を模索していた頃、三井情報からの提案を受けて、人員を増やさずに発注の自動化で業務の増加に対応することにした。ソリューションの採用はこんな経緯で決まった。
「発注」から「自主納品」へ
土屋常務取締役は、「導入したシステムを使いこなす体制として、データを分析するチームと、マネージャーが中心になって分析結果を実行に移すチームをつくった。プロ意識をもって、『技術』と『ビジネス』の両面でデータ活用の知識を身につけたい」としている。
こうして熱心に取り組んでいるのは、今後、流通経路の再設計に挑みたいと考えているからだ。ワークマンは今年中に、同社商品の製造元であるベンダーの上位30社に、三井情報のソリューションを入れるよう促し、ベンダーが需要予測を参考にして商品を自主納品する流れをつくっていく。「発注する」から「納品してもらう」という流れに変えることによって店舗スタッフの発注作業の負荷を減らし、余裕をもって接客ができるような時間を確保する。(ゼンフ ミシャ)