大手CDショップチェーンのタワーレコード(嶺脇育夫社長)渋谷店では、アーティストのライブ会場など、店舗外での商品販売用に、Square(ジャック・ドーシーCEO)のモバイル決済サービスを含むPOSレジアプリを導入した。イベント現場での商品販売は、ビジネス規模が年々拡大している。顧客サービス向上のために、店舗と同様、多様な方法でスムーズに決済できる仕組みの構築が求められていた。
【今回の事例内容】
<導入企業> タワーレコード1979年に日本に上陸した大手CDショップチェーン。従業員数は1821人で、そのうち正社員は411人(2月現在)。昨年度(2014年2月期)の売上高は533億円。全国に86店舗を展開する(6月現在)
<決断した人> 店舗運営本部店舗管理部
高橋雄也 氏ITを活用した業務効率の改善策や売り上げの向上策などの検討・実行を担当する
<課題>ライブイベント会場での物販ビジネスが拡大しているが、クレジットカード決済に対応していなかったので、商機を逸していた
<対策>モバイル決済サービスを含むPOSレジアプリを活用
<効果>クレジットカードでの決済にかかる時間を現金と同程度まで短縮した結果、イベントあたりの売上高が10%向上した
<今回の事例から学ぶポイント>現場の課題を踏まえ、選定ポイントを明確にして導入サービスを検討することで、商機を逃さない攻めのIT投資を低コストでも実現することができる
「クレジットカードは使えないの?」
タワーレコード渋谷店には、首都圏を中心とする外部イベントでの商品販売を手がけるチームがあり、年間約3000件のイベント物販を行っている。音楽アーティストのライブなどの興行は、ビジネスとしての規模が拡大傾向にあり、付随して、同社が会場で行う関連商品の販売についても、売上規模が拡大しているという。
ただし、こうしたイベント会場での従来の決済手段は現金だけで、このことが商機を逃す要因にもなっていた。ITを活用した業務効率の改善策や売上向上策を検討・実行する店舗運営本部店舗管理部の高橋雄也氏は、「販売の現場でも、クレジットカードを使えないのかとお客様にたずねられるケースが多く、『カードを使えるなら買いたかったのに』という声が聞かれるようになっていた。そのため、何らかのサービス導入が必要だと考えていた」と振り返る。
具体的な検討を始めたのは、昨年の春のことだ。「2年ほど前から中小の事業所向けに安価で手軽に導入できるモバイル決済サービスのベンダーが複数登場していて、個人的に、当社でもうまく活用できればと思いながらウォッチしていた」という高橋氏。個人でアカウントをつくって試しに使ってみたり、ある程度の試行錯誤を重ねた後に、現場側にモバイル決済サービスの導入を正式に提案。サービスベンダーの選定に取りかかった。
高橋氏は、各社のモバイル決済サービスについて、「カフェや美容院といった、扱う品数が多くないサービス事業者の店舗向けサービス」という印象をもっていた。しかし、同社のイベント物販は、それとは対照的に、扱う品数が多い。そのため、選定条件としては、「バーコードスキャナを使えることが必須だった。また、販売情報管理のPOS機能を無償で容易に使え、現金での支払いにもワンストップで使えるものを導入したかった」(高橋氏)という。この条件に照らして、導入候補は2社に絞られた。
最終的な選定は、販売現場でのテストの結果に委ねられた。求められたのは、販売にかかる時間の短縮だ。イベント会場で商品が売れるタイミングは限られている。開場から開演までの時間と、閉演から閉場までの時間で、どれだけ速い回転で商品を捌けるかがポイントになる。このテストを経て導入事業者に選ばれたのがSquareだった。

Squareの利用イメージ現金と同じスピードで決済を完了
Squareのサービスは、モバイル端末向けのクレジットカードリーダーと無料アプリを使うことで、汎用のモバイル端末でクレジットカード決済とPOSレジ機能を実現する。タワーレコードは、事前にPOSレジアプリに商品を登録し、バーコードスキャナとレシート発行用のプリンタをセットで利用している。これにより、商品ごとの売上状況をリアルタイムで把握できる。
高橋氏は、「現場でのテストでは、とにかくすばやく処理できるシステムであることを重視した。とくにカード決済では、従来のクレジットカード決済用ハンディターミナルとも比べてみたが、Squareのサービスは、端末の画面上でサインできるので、現金での支払いとほぼ同じスピードで決済を完了することが確認できた」と評価する。
さらに、現場のスタッフはアルバイトやパートタイマーが多い。操作がシンプルで、簡単なレクチャーだけですぐに操作ができることも重要な要素だった。その点でもSquareのサービスは、「販売前に15分程度の打ち合わせを行うだけで十分だった」と、高橋氏は合格点をつける。
また、売上データの取り扱いがフレキシブルにできる点も魅力だった。タワーレコードは、日本で初めて、SquareのAPI「Square Connect」を利用し、売り上げや手数料など、POSレジアプリ上のデータを「当社の希望にフィットする最適なデータ構成で簡単に抽出できるようにしてもらっている」(高橋氏)という。
今年3月には、イベント会場への本格導入を開始した。実際に、クレジットカード決済の購入は、現金での購入よりも単価が高くなる傾向があり、購入・支払いの回転率を現金と同等レベルにすることで、イベントあたりの売上高全体を10%ほど引き上げるなどの効果が出てきているという。
今後は、関西地区など、イベントで多くの集客が見込める地域から、Squareの導入を段階的に拡大していく意向だ。(本多和幸)