大手日系IT企業が、中国の高齢者サービス市場でニーズを取り込もうと、取り組みに力を入れている。中国政府によると、中国の60歳以上の高齢者人口は、2013年末に2億人を突破。今後も毎年約1000万人ずつ増加し、養老施設などの高齢者サービス市場は、2020年に5000億元(約8兆円)規模に拡大する見込みだ。

NEC(中国)
日下清文
総裁 NEC(中国)(日下清文総裁)は、今年7月に「NEC スマート養老情報化管理プラットフォーム(NEC i-Care)」の提供を開始する。裕福な高齢者向けの長期療養型施設をターゲットとして、高齢者がタブレット端末を通じて料理を注文するシステムや、スタッフが高齢者の健康状態を管理するシステム、超音波センサを活用して、個室内の入居者に異常がないか動体監視する見守り型システムなどを総合的に提供。すでに深センのデベロッパー、中海親頤現代養老サービスとは協業契約を結んだ。中海親頤現代養老サービスは、今後1000床規模の高齢者ケア施設を十数棟建設する予定で、そのすべてにNEC(中国)のシステムを納入することに合意している。日下総裁は、「とくに裕福な高齢者向けの養老施設は、高い対価を支払ってでも健康維持につながる環境を整備したいという意欲が強く、IT需要が期待できる。この分野でシェア10%は獲得したい」と意気込みをみせる。

日立系統(広州)
小林茂彦
董事長 日立システムズの中国法人、日立系統(広州) (小林茂彦董事長)は、今年5月、介護事業者向け業務パッケージの最新版「中国向け介護サービス管理システム」の提供を開始した。上海万序計算機科技や、上海復旦軟件系統工程、北京優躍達科技などのSIerを通じて販売するほか、日立系統(広州)でも政府機関や養老施設を手がけるデベロッパーに営業をかけていく。6月9日には、日立製作所の中西宏明会長兼CEOら、日立グループ企業各社の幹部約200人が北京に集まり、中国政府と交流会を開催。このなかで、日立系統(広州)の小林董事長は、国家の政策を策定する機関、中国国家発展改革委員会に対して「中国向け介護サービス管理システム」を提案し、「予想以上に大きな反響を得た」と好感触だったことを明かす。日立製作所は、09年に中国国家発展改革委員会と「低炭素社会建設・資源循環分野に於ける友好合作プロジェクト」の覚書を交わしており、「昨年末には新たに『健康養老』がテーマに加わった」(小林董事長)。日立系統(広州)は、「中国向け介護サービス管理システム」で市場シェアの10%獲得を目標としており、小林董事長は、「将来、当社の製品が中国の介護事業者向け業務パッケージのデファクトになる」と期待を込めて語る。
日系ITベンダーが、中国の高齢者サービス市場に熱い視線を注いでいるのは、ただ単に市場が急拡大するからだけではない。中国政府は 「第12次5か年計画」のなかで、高齢者向け施設の建設を促進し、ベッド数を15年までに650万床に拡充する方針を示しているが、「実際には、施設の数も介護スタッフの数も足りていない状況。さらに、養老事業を新たに開始する事業者のほとんどが、これまでマンションや不動産、オフィスビルを手がけてきたデベロッパーで、施設の運営・管理のノウハウがない」(小林董事長)。すでに高齢化社会に突入し、高齢者サービスの整備が進んでいる日本の技術・ノウハウに対しては、中国政府の関心が高く、大きな需要が期待できるわけだ。日系ITベンダーにとって、中国高齢者サービス市場は魅力的といえそうだ。(上海支局 真鍋武)