富士ソフト(坂下智保社長)は、文教市場向けのタブレット端末として、Amazonの「Kindle Fire」を担ぐ。政府が、2020年までに初等・中等教育で児童・生徒一人あたり1台の情報端末を配備する方針を掲げるなか、タブレット端末を導入した実証実験などは進んでいるが、全国的な普及に向けた阻害要因として、コストの問題が改めてクローズアップされる結果になった。端末の費用を自治体が100%補助するにせよ、BYOD(個人端末の持ち込み)の方向に舵を切るにせよ、現在市場で大きなシェアを獲得している汎用の高機能タブレット端末を使うという前提では、政府の目標を実現するのは難しい。富士ソフトが「Kindle Fire」を商材のラインアップに加えることは、市場に大きな一石を投じる動きになりそうだ。(本多和幸)

砂岡克也
事業部長 近年、文教市場でのシェア拡大に本腰を入れている富士ソフトは、主力商材である総合教育ソリューション「みらいスクールステーション」の授業支援機能を、「Kindle Fire」に対応させた。これに伴い、教室内で使用するタブレット端末として、「Kindle Fire」を取り扱い商材のラインアップに加えることになった。
Amazonが展開する「Kindle Fire」は、Androidをベースにした独自OS「Fire OS」を搭載したタブレット端末。文教市場には、富士ソフト経由で初めて展開されることになる。富士ソフトの砂岡克也・みらいスクール事業部事業部長は、この協業の背景について、「先行して実証実験を行っている自治体などで、タブレット端末のコストが高すぎると問題になったことが大きかった。これを受けて、WindowsやiOSのタブレット端末よりも安価なAndroid OSのタブレット端末を採用する自治体が出ているが、GoogleのAndroid向けコンテンツ配信サービス『Google Play』でマルウェアが見つかるなど、教育の現場からはセキュリティ面を危惧する声が上がった。これらの課題を解決できる端末がないかと探した結果、『Kindle Fire』に行きあたった」と説明する。富士ソフト側からAmazonにアプローチし、お互いのメリットを確認したうえで、パートナーシップを結んだ。
具体的に、「Kindle Fire」は文教市場での従来の端末の課題にどのような解決策を提示しているのか。砂岡事業部長は、「価格が手頃なことはもちろん、一般のAndroid端末にはあまりない機能として、利用するコンテンツを制限するペアレンタルロック機能をもっている。そして何よりも大きいのは、『Amazon Androidアプリストア』や『Kindleストア』のコンテンツは、すべてAmazonがセキュリティを担保したものであるということ。将来は、教室内の利用だけでなく、家庭や塾などでもタブレット端末を活用する可能性を考えれば、ユーザーに非常に大きな安心感を与えられる」と説明する。
さらに、価格比でのハードウェアのスペックにも定評があり、「ソフトの立ち上げに時間がかかって授業の時間を圧迫するなどのリスクも低い」(砂岡事業部長)。Amazonは、あくまでも端末で利用するコンテンツを売るビジネスが収益の柱であり、「Kindle Fire」単体で利益を得ようとは考えていない。そのため、既存のタブレット端末メーカーがコストパフォーマンスで渡り合うのは至難の業だ。最新のiPadやWindowsタブレット端末と比較すると、同じ予算で数倍の台数を購入できる可能性があるという。

5月に東京で開かれた教育ITソリューションEXPOで「Kindle Fire」が披露された また、独自の拡張APIをもっていて、システム管理者が工場出荷状態にワイヤレスで戻したり、SNSの使用を制限したりすることもできる。現在、富士ソフトは、このAPIを活用して、校内では学校専用のアプリしか利用できないようにする機能など、学校向けの管理機能を開発中だ。これらは、Amazonにとっても、文教市場という新領域で、「Kindle Fire」、ひいてはコンテンツの利用者を拡大するトリガーにもなり得る。
初等・中等教育の教育環境IT化には、まずハードウェアの整備にかかるコストが障壁になるというのは、総務省の「フューチャースクール推進事業」などに関わった多くの識者やITベンダーが認めるところだ。富士ソフトは、今年度(2014年12月期)、200校での 「みらいスクールステーション」授業支援機能の採用を目指すが、「Kindle Fire」効果でハード整備のハードルを下げ、教育向けのITソリューションプロバイダとして大幅なシェア向上を狙う。