社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の基盤を成す情報システムの構成が明らかになった。NTTグループや大手メーカーなどの5社が力を合わせて、計3システムの設計・開発を急ピッチで進めている。NEC(遠藤信博社長)は、国税庁などから情報を集めて処理する仕組みを地方公共団体の既存システムにつなぐ「中間サーバー」を受注。リーダー役としてコンソーシアムを率い、「中間サーバー」を基盤として、個人番号を活用した「次のビジネス」を創出することによって、マイナンバー事業で利益の向上を狙う。(ゼンフ ミシャ)
進んでいる開発……
「よし、行くぞ」。マイナンバー法が成立した昨年5月、NECの遠藤社長はそう決断した。「システム構築の中核的な役割をNECが担う」。利益をどう確保するかは不透明な状況だが、意を決してプロジェクトメンバーの人選に取り組むと同時に、システム構築を発注する総務省に対して営業をかけた。今年に入ってNECが受注した「中間サーバー」は、マイナンバー制度のシステムのなかで、唯一、メーカーが率いるプロジェクトだ。
マイナンバー制度は、国民に個人番号を付与して、税や年金、医療保険といった制度の効率化や透明化を図るもの。利用の開始は2016年が予定されている。
ここではまず、マイナンバー制度の基盤となるITの仕組みはどんなものなのか、そして、どのベンダーが開発に携わっているかをみていこう。基盤は大きく分けて、以下の三つのシステムで構成されている。
(1)2014年4月に設立された地方共同法人「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」が運営する個人番号の管理システム。地方公共団体に個人番号を配信するもので、マイナンバー制度のシステムの最も根本的な部分になる。総務省はこのシステムをつくるベンダーを、NTTコミュニケーションズ(NTT Com、代表)、NTTデータ、NEC、富士通、日立製作所の5社に決定した。各社は現在、詳細設計に入っており、2015年の夏までの完成を目指す。
(2)「情報提供ネットワークシステム」と呼ばれるもの。国税庁や日本年金機構、ハローワーク、医療保険者などから情報を集め、内閣府の外局である「特定個人情報保護委員会」が監視・監督するかたちで、これらの情報を処理して、地方公共団体に提供する。開発ベンダーは、(1)と同じように、NTT Com(代表)、NTTデータ、NEC、富士通、日立製作所の5社だ。こちらのシステムも設計中で、16年、1年間のテストランを経て、17年1月と同年7月の2フェーズに分けての稼働開始を予定している。
(3)情報提供ネットワークシステムを地方公共団体の既存システムにつなぐための「中間サーバー」という仕組み。今後、東日本と西日本の2か所にサーバーセンターを設置し、サーバーにデータベース(DB)を格納する。このシステムはNEC(代表)がリードし、富士通と日立製作所の3社で開発を行っている。落札の金額は8.88億円で、およそ1800団体に対して「中間サーバー」の機能を提供する。完成は、15年3月を目指している。
高まる期待感……

NEC
佐々木伸
室長代理 マイナンバー制度のシステムづくりに携わっている5社のなかで、NTTグループが強い存在感を示すが、「中間サーバー」の開発をリードしているという意味で、NECも目立っている。しかし、「中間サーバー」の受注金額は決して大きいものではなく、他社と分け合うことになるので、NECは、システム開発の延長線で儲けの仕組みをつくることが、利益を確保するうえでのキモになる。
こうした情勢のなか、NECは今年1月に「番号事業推進室」を設立した。ビジネス企画など、約20人を集めた組織で、マイナンバー制度の関連ビジネスを創出することを目的としている。
2018年にはマイナンバー制度の民間活用が予定されている。つまり、銀行や病院も個人番号を活用して、消費者に対して新しいサービスを提供することが可能になる。NECは、「金融や医療などの分野でしっかりとニーズが出てくる」(番号事業推進室の佐々木伸・室長代理=公共ソリューション事業部第一ソリューション部長を兼務)とみており、これらのビジネス化に取り組むことによって、マイナンバー事業の利益向上を目指す。
マイナンバー制度が生み出す民間市場の規模は、数千億円に上るとみられる。「そのなかで、当社はどのくらい取れるか」と佐々木室長代理はソロバンを弾く。「具体的な金額は、今策定しているところだが、数字は確実につくることができると捉えている」「経営陣に報告するたびに、期待が高まる」。佐々木室長代理が語るように、NECは、確実にビジネスチャンスを見込み、目標を高めに設定している様子がうかがえる。
表層深層
個人番号を足がかりに次のビジネスへ
NECが「中間サーバー」の案件を受注したのは、今年の1月24日。実は、発注した総務省は昨年の11月にNTTグループの企業に決めていたが、同社が辞退したことによって、2か月半後、改めてNECに決めたという経緯がある。その詳細については明らかになっていないが、「中間サーバー」を構築するためには、規模の小さな地方公共団体の業務にも精通するノウハウが必要になる。総務省は、そのノウハウを確実にもっていることを認識したうえで、再入札でNECを選んだとも考えられる。
IT業界では「マイナンバー制度(のシステム開発)は儲からない」とよく聞く。そんななか、「中間サーバー」はNECにとって果たして“うれしい受注”だったのかという問いに対して、佐々木伸・室長代理は一瞬、返答に詰まった。「中間サーバー」の受注金額は8.88億円なので、これだけでは、大きなビジネスにならない。しかし、「中間サーバー」が基盤になって、今後、民間分野でもマイナンバー活用の案件の獲得が可能になるという意味で、事業化の見込みが高いといえそうだ。
新規ビジネスの「きっかけ」になるマイナンバー制度。IT企業は、個人番号をどういう切り口で「次のビジネス」につなげるか。知恵の絞りどころだ。(ゼンフ ミシャ)