「ゲーム」を取り巻く環境が大きく変わっている。少子化が進んだうえに、室内で楽しむオンラインゲームが普及し、その影響でゲームセンターを利用する人が減少しつつある。ゲーム大手のセガ(岡村秀樹社長)は「限界まできている」と判断し、ユーザーはゲーム以外の時間に何をしているかをきめ細かく把握し、より広い範囲での「遊び」を提供しようとしている。そのために導入したのは、ブレインパッドが構築を手がけたデータ分析・活用システムだ。セガはこれをツールにして、新たな市場の開拓に動く。
【今回の事例内容】
<導入企業>セガゲームコンテンツの提供やゲームセンターの運営を手がける。設立は1960年。従業員数は2226人。東京・品川区に本社を構える
<決断した人>社長室の竹崎忠室長(左)と小島雄一郎課長。セガでは、社長直轄の組織でデータ活用を進めている
<課題>ゲーム市場を取り巻く環境の変化によって、新しいビジネスの創出を求められていた
<対策>データ分析・活用を本格化し、ユーザーの生活習慣に応えたあらゆるサービスを提供するための基盤を構築
<効果>ビジネス化はこれからだが、ゲームの従来の範囲を超えたサービス開発が可能になる
<今回の事例から学ぶポイント>経営層がデータ活用を明確に決め、全社でそのためのIT導入や体制づくりに取り組む必要がある
「ゲームの後」に商機
セガが導入したのは、SAPのデータマイニングソフトウェア「SAP InfiniteInsight」を使って構築したデータ分析基盤だ。セガはこの基盤の上で、「SEGA ID」所有者の登録・使用情報やネットワーク対応アーケードゲームのプレー情報など、同社が提供している各サービスで集めたデータを一元管理し、分析することによって、データの裏にある「ユーザー像」を見える化しようとしている。システムは、データ解析に強いブレインパッドがつくった。セガは、専門家でなくても分析作業ができるとされる「SAP InfiniteInsight」の特徴を生かしてデータ活用に取り組み始めると同時に、ブレインパッドのデータサイエンティストの力を借りて、「データ」で新しいビジネスを生み出すことを目指している。
セガが運営する人気のテーマパーク「ジョイポリス」。東京・お台場や大阪・梅田にあるジョイポリスに足を運び、ゲームを楽しむ人たちは、ゲームを終えて家に帰ったら、どういうふうに時間を過ごすのかを探った。
「ゲームをやめた瞬間、セガとのつながりがなくなる」。システム導入を率いた竹崎忠・社長室室長はそう捉え、ゲームの「後」に着目。夕食をとったり、お風呂に入ったりなど、ユーザーの生活習慣を把握することで、つながりを維持し、次のビジネスに結びつけることができるのではないかと考えた。商機は、ユーザーが「ゲーム以外の時間に何をしているか」に潜んでいると判断して、データ分析基盤の採用に踏み切ったのだ。
ゲーム感覚で料理づくり
セガはゲームコンテンツ以外に、コミュニティサイト「it-tells(いってる)」を提供している。「共感と信頼の語らい場」をコンセプトにしているもので、ユーザーから大量の投稿が集まる。投稿は、ゲームについての感想だけではなく、「今日は○○の誕生日」「○○のイベントに行ってきます」といった内容も寄せられ、ユーザーの日常生活を垣間見ることができる情報が多い。セガは、分析基盤を生かして、「it-tells」で収集したデータに、プレー情報などを追加し、予測モデルを構築して総合的に解析している。
「例えば、料理が好きだとわかったら、ゲーム感覚で料理をつくるサービスを提案するなど、必ずしも(従来型の)ゲームではない、新しいかたちの『エンタテインメント』の提供が可能になる」「今回のシステム導入で新規ビジネスの足がかりができた」。竹崎室長は、システムをフル活用して、分析結果を早期にサービス開発・事業化につなげることに力を入れている。
社長室長を務める竹崎氏の所属からわかるように、セガは、社長直轄の組織でIT活用に取り組んでいる。同社はこれまでも、プレー履歴を分析し、ユーザーはどのゲームを、どのくらい時間をかけて楽しんだかを可視化して、製品開発やキャンペーンの開催に生かしてきたが、今回のシステム導入をきっかけとして、データを経営/ビジネスに本格活用する。
現場にとって使いやすいよう工夫
現場で基盤の導入に携わったのは、小島雄一郎・社長室プロジェクト推進部SEGA ID推進課課長だ。「実際、データ分析の作業を行うメンバーにとって使いやすいよう、予測モデルの構築を自動化するなど、操作性にこだわった」という。「ブレインパッドのデータサイエンティストも3か月ほど現場に入り、当社メンバーへのスキルトランスファーを行った」というように、データ活用に欠かせない“現場力”を磨いてきたそうだ。
竹崎室長は、「スモールスタートから始めるのがポイント。細かいマイルストーンを積み上げて、データ活用を成功に結びつけたい」と抱負を語る。セガはデータで明日のビジネスをつくっていく。(ゼンフ ミシャ)