日本への外国人観光客を増やそうとする政府の取り組みや、2020年の東京五輪の開催決定が、首都圏を中心とするホテル業界に刺激を与えている。各ホテルは世界の人々を迎えようと、着々と取り組みを進めている。「モバイル」の時代に突入して欠かせないのは、スマートフォンなどを使い、無線でインターネット接続ができる仕組みの整備だ。アクセスポイントを導入し、Wi-Fi環境を構築した京王プラザホテルの取り組みを追った。
【今回の事例内容】
<導入企業>京王プラザホテル東京・西新宿の超高層ホテル。開業は1971年。本館と南館の2棟建てで部屋数は1400室以上。株式会社京王プラザホテルが運営している
<決断した人>大隅司
宿泊部宿泊オフィス支配人
海外観光客などからの要求に対応するために、ラッカスのアクセスポイントを採用したWi-Fi環境の構築を決断した
<課題>スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、無線インターネットを利用したいという海外観光客からの要望が高まり、Wi-Fi環境を整備する必要が生じた
<対策>設置台数を抑えながら広いエリアに電波を届けるラッカスのアクセスポイントを導入し、Wi-Fi環境を構築した
<効果>全客室で無線のインターネット接続が可能になり、宿泊客のニーズに応えている
<今回の事例から学ぶポイント>世界の観光客に日本を楽しんでファンになってもらうためには、ICTを活用して、無線インターネット接続などのインフラ整備が欠かせない
危機感を抱いて導入に踏み切る
京王プラザホテルは、この11月、若い女性に人気のキャラクター「ハローキティ」を内装や備品に取り入れた客室を開設する。一泊の料金は約7万円と高めに設定した。世界で注目されているハローキティを活用することによって、経済力のある女性に京王プラザホテルに宿泊してもらい、事業の活性化につなげる狙い。来月、客室がオープンしたら、大隅司・宿泊部宿泊オフィス支配人は安心してお客様を迎えることができる。なぜなら、ハローキティの部屋も、Wi-Fi環境が万全に整っているからだ。
京王プラザホテルは、ラッカスワイヤレスジャパン(ラッカス)が提供する約280台のアクセスポイントを採用し、1400以上ある客室で無線のインターネット接続ができるようにしている。現在、Wi-Fiの対応領域の拡張に取り組んでおり、レストランや宴会場なども含めて、全施設に広げようとしている。京王プラザホテルがWi-Fi環境を構築するためにラッカス製品の導入を決断したのは、東京の有力ホテルのなかでは無線インターネット接続の整備に出遅れ、宿泊客の要望に対応できないという強い危機感を抱いたことがきっかけになった。
コストとセキュリティが障壁
京王プラザホテルは、宿泊客の約60%が海外観光客。彼らは、スマートフォンを片手に旅に出て、あたりまえのようにWi-Fiを利用している。ラッカスのアクセスポイントを導入する前は、受付でおよそ100台のWi-Fiルータを用意し、使いたいという要望があったお客様に貸し出していた。しかし、100台用意しているといっても、部屋数が1400室を超える巨大なホテルなので、「ルータはあっという間になくなり、買い足しに追われた」と、大隅支配人は語る。
ホテル業界では、定期的に客室の家具を入れ替えたり、レストランをリニューアルしたりするなど、宿泊客のニーズに応えるために、施設をブラッシュアップする。Wi-Fi環境の用意もその一環だ。しかし、とくに京王プラザホテルのような大型ホテルにとっては、Wi-Fi環境をつくることは、コストやセキュリティの面で容易ではない。「都内のある老舗シティホテルのように本館を建て替えるのならいいのだが、既存の建物にアクセスポイントを装備するのは大変」。大隅支配人は、競合でありながらも仲良くしているという他のシティホテルから情報を集めたり、メーカーについて調べたりするなかで、ラッカスの製品に着眼した。
設置台数を30~40%少なく
ラッカスのアクセスポイントは、独自のアンテナ技術を採用して、広いエリアに電波が届くようになっているので、設置台数を抑えることができる。大隅支配人は、ホテル向けのICT(情報通信技術)構築に強いNECネッツエスアイにラッカス製品を使った提案を受け、わずか約280台のアクセスポイントですべての客室をカバーできることを評価した。「他社製品よりも台数が30~40%少ないので、大きなコスト削減につながる」と判断し、NECネッツエスアイへの発注を決めた。アクセスポイントの導入とともに、宿泊客専用のIDとパスワードを活用するセキュリティの仕組みも導入し、宿泊客以外の人はインターネット接続ができないようにしている。

2013年7月、南館高層階に開設した「プラザリュクス」の客室。海外観光客に「東京」を感じてもらうために、ダークな色を基調としている優雅なインテリアの空間をつくった。Wi-Fiのインフラも整え、無線でインターネット接続ができる
今や、国内でもWi-Fiの普及が進んでいるので、京王プラザホテルのケースは特別なものとはいえない。Wi-Fi環境の整備によって、あくまでお客様が要求する「あたりまえ」に対応し、それを踏まえて、ハローキティのように斬新な部屋デザインやきめ細かいサービスによってお客様の心をつかみ、日本の「おもてなし」を体感してもらおうという狙いだ。そして、後方では、ストレスなく無線のインターネット接続ができるシステムが稼働しているからこそ、宿泊客にステイを満喫してもらい、次回も京王プラザホテルを選んでもらうことを意図しているのだ。(ゼンフ ミシャ)