駐輪場事業を手がける芝園開発(海老沼孝二代表取締役)は、富士ソフトのデータ分析基盤「FSBizTrust」を採用し、施設をITで管理するシステムを構築した。駐輪場の事業が「大きく儲かるビジネスではなくなってきた」(海老沼代表取締役)という状況にあって、「1円単位で」コストをコントロールする必要がある。そこで、システムの導入で管理業務の効率化に取り組み、利益の向上を図る。どういう経緯でデータ活用に踏み出したのか。システム導入のプロセスを追った。
【今回の事例内容】
<導入企業>芝園開発東京や埼玉、千葉で駐輪場・駐車場の運営を手がける。創業は1986年。社員数は20人で、東京・足立区の綾瀬に本社を構える
<決断した人>海老沼孝二代表取締役(右)が導入を決めて、管理部部長の市川桐多氏がシステムの導入を率いた
<課題>駐輪場が増加するにつれて、スタッフが現地に行って稼働状況を確認することが難しくなった
<対策>分析基盤などを導入し、駐輪場からデータを集めることで、パソコン画面で稼働状況を把握できるようにした
<効果>管理業務を効率化してコスト削減に結びつけ、駐輪場運営事業の利益を向上
<今回の事例から学ぶポイント>データ分析に取り組めば、業務改善につながり、利益を捻出しにくいビジネスでも儲かるようになる
社会問題の解決に貢献
東京・足立区の綾瀬駅。駅周辺で目立つのは、あちこちに放置された自転車だ。都市部の郊外を中心に、放置自転車が社会問題になっている。健康志向が高まり、軽い運動になるというので、自宅から自転車に乗って最寄り駅に向かい、電車で通勤する人が増えた。その結果、地方自治体が用意した駐輪場の収容スペースが増え続ける自転車の数に対応し切れなくなり、やむを得ず、放置する人が多くなった。
1986年創業の芝園開発は、綾瀬駅から徒歩で約5分の場所に本社を構えている。放置自転車は街の景観を損なうだけでなく、交通安全上の問題にもつながる。そのようなことから芝園開発は、首都圏各地で、時間貸し駐輪場「cycle24h」を展開。放置自転車を完全になくすことはできないものの、数をなるべく少なくして「自治体の悩みを解決する」(海老沼代表取締役)をミッションに掲げる。
そんな芝園開発の経営上の問題は、利益の創出だった。海老沼代表取締役は、「駐輪場の運営は、大きく儲かるビジネスではない」ということで、施設の管理コストをなるべく抑えて、利益の向上につなげるのがポイントだとみている。

東京・綾瀬の時間貸し駐輪場「cycle24h」。機械が故障していないかどうかを見える化し、施設管理の効率化につなげている定例会議で一緒に仕様を考える
つまり、生き残るために芝園開発にとって不可欠なのは、コスト削減に徹することだ。海老沼代表取締役は、ITを活用して「駐輪場を効率よく管理する仕組みをつくることはできないか」と考えた。芝園開発は、1998年に日本で初めて「無人個別管理駐輪システム」を開発したという実績をもっていて、以前からIT活用に積極的な姿勢をみせてきた。今回、提案を求めたのは、富士ソフトである。富士ソフトとは、IT系の展示会でコンタクトを取り、同社の技術力を評価したのが、提案を依頼するきっかけになった。
富士ソフトが提案したのは、データ分析基盤「FSBizTrust」を活用し、数百か所ある駐輪場から情報を集めて稼働状況を見える化するという仕組みだ。以前は、芝園開発のスタッフが駐輪場に足を運び、機械が壊れていないかなどを確認していたのだが、駐輪場の数が増えれば増えるほど、人員リソースに限界を感じ、管理業務をIT化する必要を痛感するようになったという。
今回、システムの導入を現場でリードしたのは、管理部部長を務める市川桐多氏だ。富士ソフトから完成したソリューションの提案を受けるのではなく、2週間に一回のペースで会議を開き、どんなシステムをつくるかについて、富士ソフトのエンジニアと議論を進めながら、仕様書の作成にこぎ着けたのだ。市川部長は、「昔、システム導入で失敗した経験もあって、今回は自社からも積極的に導入プロセスに関わって、システムづくりとともに実際にシステムを使う社内体制の構築に注力した」と語る。

アイコンによって、駐輪場の稼働状況を表示するアイコンで優先順位をつける
2012年にシステムの開発に着手し、今年から本格的に稼働を開始した。スタッフのパソコン画面には、駐輪場ごとに自転車のアイコンが表示される。アイコンが青なら施設に問題はないが、赤で表示される場合は、機械の故障などすぐに対応しなければならない事態が発生している。これによって、「画面を見るだけで、仕事の優先順位をつけることができ、問題を早く解決することができる」(市川部長)と、導入効果に満足している。
放置自転車の対策は、郊外の活性化につながる。海老沼代表取締役は「IT活用のおかげで管理業務が効率化し、駐輪場の利用を2時間無料で提供することができる。このサービスを前面に打ち出して、安心して綾瀬へ自転車で買い物に来てもらい、地元の商業施設が元気になるよう支援したい」と、社会貢献に熱心な姿勢を示している。(ゼンフ ミシャ)