2014年にオープンしたヘアサロン「TRAM」。開業当時の会計処理は、電卓を使っての手作業計算、レシートは特注した専用紙に手書きといったアナログ作業……。オーナーの脇田大輔氏は、コストをかけずに電子化できないかと考えて、ネットに情報を求めた。そこで出会ったのが、リクルートライフスタイルが提供するスマートデバイス向けクラウド型無料アプリ「Airレジ」だった。脇田オーナーは、レシートプリンタを含めて無料でレジ端末を手に入れる。
【今回の事例内容】
<導入企業>TRAM埼玉県・越谷市のヘアサロン。オーナーの脇田大輔氏が他店舗でスタイリストの経験を積んだ後、独立して2014年4月にオープンした
<決断した人>脇田大輔 オーナー
店舗経営に取り組むほか、スタイリストとしても活躍する
<課題>会計処理とレシートの発行作業を手作業で行っていたので、手間がかかっていた
<対策>無料のレジアプリ「Airレジ」と、レシート専用プリンタを同時に導入した
<効果>レシートを手作業でつくる必要がなくなり、会計処理も電子化できたので、計算ミスを防ぐことにもつながった
<今回の事例から学ぶポイント>開業直後の店舗経営者は、コストにシビア。ITベンダーは、無料ツールを有効活用して入り込むことが有効
手作業だった会計と領収書発行
脇田オーナーは、およそ10年間、ヘアサロンでスタイリストの経験を積んだ後、2014年4月に独立。念願だった自分の店「TRAM」を開いた。店舗の工事費用など、開業直後はいろいろとお金がかかったので、会計処理や売上管理などのバックオフィス系業務には、なるべくお金を使いたくなかった。店舗の会計処理業務では、レジ端末を導入するつもりは当初からなかったという。開業当時、会計時の計算は、電卓を使っての手作業。レシートはオリジナルデザインの特注品で、カットやパーマ、カラーなど来店客に提供したサービスメニューを記載して、金額を手書きしていた。
手作業は面倒だし、計算ミスが起こる可能性もある。脇田オーナーは、この会計業務をなんとかお金をかけずに電子化できないかと考え、ネットで検索。そこで、Airレジを知る。「iPhoneを使ってクレジットカード決済ができる仕組みがあることを知っていたので、(iPhoneを活用した)レジもありそうだな、と。ネットで調べたら、Airレジがひっかかった。いくつか類似ツールもみつけたが、Airレジが最も簡単そうだったし、無料なので即決した」という。「設定は簡単で、導入後の操作も迷いはなかった」(脇田オーナー)。脇田オーナーが以前使っていた型落ちのiPhoneは、TRAMのレジ端末に変わった。
レシートプリンタを無料調達
レシートプリンタも幸運にも無料で調達することができた。
TRAMは、集客目的でヘアサロンやエステなどの検索・予約サイト「ホットペッパービューティー」に広告を定期出稿している。広告の編集は、「SALON BOARD」というユーザー専用のウェブツールを使うのだが、実は、ホットペッパービューティーもSALON BOARDも、Airレジの提供会社と同じリクルートライフスタイルが手がけている。
脇田オーナーがSALON BOARDをのぞいたとき、Airレジと連携動作するBluetooth接続の小型レシートプリンタが無料で手に入るキャンペーン情報をたまたまみつけ、応募して当選した。「レシート印刷機能つきのレジ端末を無料で手に入れることができた」(脇田オーナー)というわけだ。
偶然ではないベンダーの戦略
導入した一連の製品やサービスをすべてリクルートライフスタイルが提供していたことは、脇田オーナーにとってはまったくの偶然だった。ただ、この偶然は、リクルートライフスタイルが仕掛けた巧妙な戦略のようにも思える。
レシートプリンタは確かに無料だが、レシート用紙は同社の通販サイト「ポンパレモール」で購入すればお得。事実、TRAMはポンパレモールで買っている。SALON BOARDは、広告編集機能だけでなく、売上管理、顧客情報管理、ネット予約の機能が付加されている。そして、Airレジとの連携も可能だ。リクルートライフスタイルは、複数サービスを組み合わせることによって、備品の購入、レジ、重要情報の管理、集客といった、ヘアサロン経営に必要な製品やサービスを、結果的にトータル提案している。「無料」を巧みに使って、ユーザーに入り込み、いつの間にか欠かせない存在になる。必要不可欠になれば、今は無料で提供しているツールやサービスを有料化することによってマネタイズする道が開ける。

iPhoneとプリンタで会計処理とレシートを発行。一般的なレジ端末は存在しない 「SALON BOARDの利用料金は、サービス内容によって複数のメニューがあるが、TRAMでは1か月の広告掲載料金込みで4万5000円のプランを利用している。SALON BOARDでは、ネット予約と広告編集機能しか使っていない。顧客情報の管理や電話予約の情報、売上管理は、手間はかかるが、別のツールを使っている。その理由は少し使い勝手が悪いことと、囲い込まれるのが怖いから。値上げされたら拒めなくなってしまう」。そう脇田オーナーは話すが、AirレジとSALON BOARDが、TRAMを支えているのは事実。リクルートライフスタイルが機能を改善すれば、脇田オーナーの警戒心を取り払い、もっと入り込めるのかもしれない。(木村剛士)