ITインフラサービス事業者のKVH(東瀬エドワード社長)は、「日本品質」を武器にビジネスを拡大しようとしている。日本が本拠地である点を生かしながら、同じITインフラサービス事業者の英コルトの傘下に収まったことで、日本やアジアだけでなく、欧米でもビジネスを手がけられるようになった。この基盤と、日本が本拠地ということを前面に押し出すことで、クラウドサービスが普及しつつあるなか、存在感を高めていく方針だ。(佐相彰彦)
「日本が本拠地」は大きな利点

ギント・アトキンソン
副社長 2015年5月、ネットワーク関連製品メーカーをはじめ、ネットワークを使ってサービスを提供している事業者、アナリスト、報道関係者などが集まって、今後の市場動向について議論するイベント「NetEvents APAC Press & Service Provider VIP Summit」がシンガポールで開催された。そのイベントの講演で登壇した、KVHでネットワークストラテジー&アーキテクチャー部の責任者を務めるギント・アトキンソン副社長執行役員は、KVHが日本を本拠地にITインフラサービスを提供していることを説明。「日本のお客様は、セキュリティを含めてネットワークに関して非常に細かいことをさまざま要求してくる。そのお客様が認めるITインフラサービスは、ワールドワイドで必ず通用する」とアピールした。
KVHがITインフラサービスを提供するうえで重要視しているのは、SIerやソフト開発ベンダーとの連携強化だ。SIerやソフト開発ベンダーが、日本に加えてアジア市場も網羅するKVHのITインフラサービスと、さまざまな業種・業態に適した自社の製品・サービスを組み合わせてユーザー企業に提供。ユーザー企業にとっては、アジア市場など海外に進出する際にKVHのネットワーク網を利用するのは価値がある。
昨年夏には、アジア地域で他社を含む主要なデータセンターをイーサネットで相互接続する「DCNet」サービスを開始。また、プライベートクラウドとして「Type-S」の提供も開始し、売上規模が拡大するなど、ビジネスが順調に推移している。Type-Sでは、国際標準のクラウド基盤「OpenStack」を採用することで、競合であるAmazon Web Services(AWS)やSoftLayer、Microsoft Azureなどのパブリッククラウドサービスとの連携も実現している。
グループで存在感を出す
昨年におけるKVHの最大の話題といえば、欧州を中心にITインフラサービスを提供する英コルトの子会社になったことだ。コルトが親会社になったことで、KVHが強調する「日本品質」が薄れる可能性があるが、アトキンソン副社長は「むしろ、『日本品質』をワールドワイドに広めることができる」と強気な姿勢をみせる。英コルトがKVHの買収に踏み切ったのは、開拓し切れていないアジア地域でKVHがITインフラサービスを提供している点と、日本のユーザー企業がKVHに信頼を寄せる存在になったという点が大きな要因だ。
KVHにとっては、英コルトの子会社になったことで「小さな規模だった当社に、技術者など多くの人的リソースが加わっただけでなく、当社が攻めきれていなかった欧州まで地域を広げることができるようになった」と、アトキンソン副社長は説明する。
英コルトの傘下に収まったことで、企業規模に加えてビジネスを手がける地域が広がったKVH。アトキンソン副社長は、「とことん『日本品質』を追求していくのが大手ITインフラサービス事業者との競争に勝つ方法の一つ。今後も、繊細な部分にこだわって質の高いサービスを提供していく」との方針を示している。