ケーズデンキなど家電量販店を展開するケーズホールディングスは郊外型の出店スタイルで今年度(2016年3月期)も着実に店舗数を増やしている。直営店で32店舗を新規出店し、期末にはグループ合計で468店舗を計画する。ライバルが閉店に追い込まれるなか、郊外型店舗で新規に出店しつづけることはできるのか。「がんばらない経営」を経営スローガンに掲げる同社にとっては、頑張り時ではないのか。遠藤裕之代表取締役社長兼COOに疑問をぶつけた。(取材・文/細田立圭志 写真/大星直輝)
駐車場のラインひとつもこだわってファンづくり

ケーズホールディングス
遠藤裕之
代表取締役社長兼COO
1951年6月26日生まれ、茨城県出身。85年10月、ケーズホールディングスに入社。商品部長、マルチメディア部長、営業統括部長などを歴任後、98年3月にひたちなか本店(茨城県)、99年10月に水戸本店(茨城県)、03年4月に東京ベイサイド新浦安(千葉県)と次々に大型店を店長として立ち上げ、大型店の店舗運営の基礎を構築する。06年より本社業務へ就き、専務取締役営業本部長を経て、11年6月より代表取締役に就任。現在でも店舗での経験を基に経営の指揮を執る。 ──少子高齢化や人口減でマーケットが縮小するなか郊外では家電量販店が閉店するなど競争が激化しています。都市型店舗がないケーズデンキも影響があるのではないですか。 遠藤 家電量販店はオーバーストアだとみなさん言いますが、われわれの店の周りの家電量販店やパパママショップが次々と閉店しているのです。みなさんが思っているほど競争は激しくなっていませんよ。毎年、コンスタントに新規出店しているのはわが社ぐらいだし、各エリアで本当に競争は激しくなっているのですかね。
──ケーズデンキは元気だけど、ほかの家電量販店が苦しんでいると。 遠藤 確かに客数の伸びは以前ほどの勢いはありません。売上高が前年比で120%も伸びるような時代ではありません。しかし、客単価は前年比で120数%の勢いで伸びています。各家庭に家電製品がある程度行き渡り、家電業界は買い替え需要がベースになっています。冷蔵庫が壊れたからといって、冷蔵庫のない生活をする方はいらっしゃらないでしょう。この確実に起きる買い替え需要を、どう取りながらシェアを上げていくかという戦略です。
──他社が撤退する郊外の市場でケーズデンキが残っている理由はなんですか。 遠藤 どこかに勝つとか、どこかから奪い取るというイメージはありません。ただ、お客様に選んでいただくことを意識しながら、社員のみなさんは日々取り組んでいます。大切なのはファンづくりです。では、ケーズデンキのファンになっていただくために何をするのか。これについては細かい項目まで落とし込んで、理想に近づける取り組みを続けています。
──例えばどんな取り組みですか。 遠藤 一つひとつ挙げればきりがありませんが、例えば駐車場に車をとめる時に、隣の車との距離がギリギリの幅しかなく、ラインが一本しか引かれていない駐車場と、ダブルのラインが引かれている駐車場と、お客様はどちらの駐車場のある店に行きたいと思いますか。前者では隣の車との距離にハラハラしながら止めなくてはいけませんが、後者では二本の線が引かれているので内側のラインギリギリに止めても、隣の車との距離が確保されているので余裕をもって止められます。駐車場のラインひとつとっても、細かい積み重ねをどこまでするかということです。
インターネット販売はリアル店舗がある方が便利
──都市部への出店は考えていませんか。 遠藤 一切考えていません。普通であれば、人口が減っていくので多くのお客様がいる都市部に出店した方が売り上げが増えると考えますよね。年商5億円の店を4店つくるよりも、年商20億円の店をボーンとつくっちゃった方が効率的だと。しかし、都市型と郊外型では運用手法がまるで異なります。同じ家電製品を扱っているのだから一緒でしょ、という話ではありません。両方を手掛けると、結果的に時間がかかるし、コストも高くつきます。
──大きなマーケットに大型店を出店した方が売上拡大のスピードは速まりそうですが。 遠藤 われわれが飛び地にいきなり出店せず、ドミナントで出店しているのには理由があります。ケーズデンキが1店あったら、その店の商圏の一部がかぶるようにして新規に出店します。半分のお客様はケーズデンキを知っているけど、残り半分のお客様はケーズデンキをそれほど知らない新規客となります。この方が、利用していたお客様の口コミや評判が広がりやすく、コストを抑えてファンを増やすことができるからです。ケーズデンキをまったく知らないお客様だけの土地にいきなり大型店を出店しても、周りには競合の量販店がいるんですよ。競合がいるなか、一から自分たちのお客様をつくっていくのは、時間もコストもかかるのです。われわれのようなドミナント出店をみなさんはカニバルと言いますが、商圏が重なる部分の売り上げは減ってもいいんです。1店だけだったときより、2店の方がトータルのシェアは広がっているのですから。シェアが広がれば、販促コストはその分、抑えられます。
──1店あたりの平均売場面積は約3700m2になっています。スクラップ&ビルド(SB)を今後も進めていくのですか。 遠藤 年間10店ぐらいのペースで、われわれは何十年もかけてずっとSBを続けています。いま一斉に閉めている(他社の)店は、SBをせずにずっとリニューアルしなかった店でしょう。SBは、長い時間をかけて閉店と同じことを行っているのです。SBをせずにほったらかしにしていたら、今から100店閉めなければならないとなるわけです。
──インターネット販売についてはどうですか。 遠藤 われわれも自社サイトで販売していて、売上構成比で1%の約70億円ぐらいです。今後も増やす考えはありません。多くは商圏内のお客様の利用です。ケーズデンキで購入しようと思ったけど、今日は都合があって店に行けないからネットで購入するという使い方が多いです。ネット販売こそ、店が近くにあった方が便利なのです。商品が気に入らなければ、店に返品しにいけば済みますから。自分で梱包して配送センターに返品する面倒はいらないのです。
──リアル店舗を持っている方が、価格面で不利ではないですか。 遠藤 物流センターなど新たに投資する必要がないので有利です。販売する商品を店舗で在庫しておけるので、お客様が注文した商品は一番近くの店から配送できます。ネット販売を経営している方は、リアル店舗よりもコストが高くかかっているジレンマを抱えていると思いますよ。ECサイトに出店するフィーを支払って、なおかつ高い宅配便の配達料を負担するのですから。われわれはその分を現金値引きにあてても利益はネット販売と同じか、それよりも多いですから。ECは、どこまでいっても店に来られない人へのサービスのひとつです。
取材を終えて
一般的に上場企業は、お客様が第一、株主が第二、取引先が第三、社員が第四という順位づけをすることが多いのではないか。お客様第一は建前で、本音は株主第一という企業も多いだろう。しかし、遠藤社長はインタビューで「社員が第一、取引先が第二、お客様が第三、株主が第四」と明言する。社員や取引先が満足すれば、顧客満足や株主の期待に応えられる経営につながる。こうした考えは、ケーズデンキに脈々と受け継がれている文化だという。
地元採用など社員が満足するための施策はいろいろあるが、驚いたのが叱責される社員がいないこと。店長も叱責されることはない。遠藤社長自身、入社してから加藤修一会長に一度も怒られたことがないというのだから本当なのだろう。「ただし褒められたこともないけどね」と笑いながら付け加える。少子化による人手不足は、家電販売現場の大きな課題。働く人を第一に考える経営は、長い目で見れば優秀な社員集団が形成され、効率的な店舗運営や経営につながる。ケーズデンキのもうひとつの強みだ。