【烏鎮発】中国政府が、外資系IT企業に対して歩み寄りの姿勢を示している。2015年12月16日、「世界インターネット大会」の開幕式で基調講演した習近平国家主席は、外資への市場開放を強調した。翌17日には、これを反映するかのように、マイクロソフトと中国電子科技集団(CETC)が合弁会社の設立を発表。市場開放が進めば、外資系IT企業は、苦戦を強いられていた中国ローカルビジネスの展開にはずみがつく。(上海支局 真鍋 武)
15年12月16日~18日、浙江省・烏鎮で行われた中国政府主催の「世界インターネット大会」に、習国家主席が出席した。16日の開幕式で基調講演し、減速傾向にある中国経済を成長させる原動力として、インターネットを活用した産業改革「互聯網+」行動計画を強固に推し進める意向を示した。同時に習国家主席は、外資企業に対しての市場開放を強調。「中国のインターネットの発展は、各国の企業と創業者に大きな市場をもたらした。中国の開かれた門は永遠に閉じることはなく、外資利用の政策が変わることはない。外資企業の合法的な権益の保障も変わることはなく、各国企業の中国での投資・事業に対して、よりよいサービスを提供するという方向性も変わらない」とした。
翌17日、マイクロソフトは、CETCと中国に合弁会社「C&M Information Technologies」(仮称)を設立することを発表。中国政府や国有企業に対して、WindowsベースのOSを研究・開発して提供していく構想だ。合弁会社の資本金は4000万米ドルで、出資比率はCETCが51%、マイクロソフトが49%となる。
14年5月、中国政府は政府機関が使用するシステム上で、マイクロソフトの「Windows 8」の使用を禁止する通達を出した。その後、マイクロソフトは中国の独占禁止法に抵触しているとの疑いで、中国国家工商行政管理総局(SAIC)から調査を受けるなど、苦しい境遇にさらされていた。それが今回の合弁会社設立によって、風向きが変わることになる。

「世界インターネット大会」で基調講演する習近平国家主席
合弁会社の設立に署名するマイクロソフトとCETCの担当者ら 見落としてはならないのが、今回の合弁相手がCETCだということ。一般の企業ではなく、国務院国有資産監督管理委員会が直轄する中央国有企業である。つまり、マイクロソフトは中央政府からのお墨つきを受けて、政府・国有企業向けビジネスを手がけられることになる。
中国政府が外資に歩み寄るのは、減速する中国経済のなかで産業モデルの転換を推進するために、外資の力が不可欠と認識しているからに他ならない。15年9月下旬に習国家主席が訪米した際、中国大手IT企業のトップ層を引き連れていったのは、その狙いもあってのことだろう。実際、この訪米期間中に、マイクロソフトとCETCは、今回の合弁会社設立につながる提携を結んでいた。今後も、中国政府の外資に対する歩み寄りが加速する可能性がある。
ただし、市場開放のやり方には課題も残る。今回のマイクロソフトの例も、合弁会社設立のかたちにとどまっており、自社単独でローカルビジネスに参入しやすくなったわけではない。外資系IT企業がローカルビジネスを展開するうえで、地場企業との協業が不可欠である点は従来と変わりない。
また、クラウドサービスの提供に必要なICPライセンスなど中国のインターネット関連ライセンスも、外資が事実上取得できない状況が続いている。中国政府が、真に外資に市場開放を主張するのなら、企業が公正・公平に市場競争できる環境の整備が不可欠となる。