日本マイクロソフト(平野拓也社長)のクラウドパートナー拡大の勢いが増している。ソフトウェアメーカーとしての米マイクロソフトや地域販社としての日本マイクロソフトと一部競合するビジネスを展開しているベンダーもパートナーとして取り込み、マイクロソフト製品のポートフォリオをベースにしたエコシステム(=生態系)の形成を着実に進めている。同社がクラウド3兄弟と呼ぶ「Microsoft Azure」「Office 365」「Microsoft Dynamics CRM Online」といったキラーコンテンツを筆頭に、幅広いクラウドサービスを揃える大手総合ベンダーならではの手堅い戦略が光る。(本多和幸、日高 彰)
製品単位では競合するブイキューブ
日本マイクロソフトは2月2日、ビジュアルコミュニケーションサービスベンダーのブイキューブ(間下直晃社長)とクラウドビジネスで協業すると発表した。この協業で注目すべき点は二つある。
一つは、この協業を機に、ブイキューブの主力サービスである「V-CUBE」のクラウド基盤を、これまでの「Amazon Web Services(AWS)」から「Microsoft Azure」に移行するということ。V-CUBEは、ウェブ会議サービスをはじめ、法人向けに映像と音声によるコミュニケーションツールを提供する同社サービスのブランド名だが、SaaSのウェブ会議サービス市場では、8年連続国内トップシェア(シード・プランニング調べ)を誇る製品だ。
2017年夏までに、クラウドの売上比率を50%まで引き上げるという目標を掲げている日本マイクロソフトは、新たなクラウドパートナーとしてISVとの関係構築に注力し、ISVのクラウドサービスとマイクロソフト製品のシナジーを市場に訴求していく方針を明確にしている。さらに、AWSをはじめ、先行するクラウドサービスのSIパートナーやISVパートナーを切り崩し、マイクロソフト陣営に取り込んでいく方針も示している。ブイキューブは、まさに日本マイクロソフトのこうしたビジョンに合致するベンダーだったといえるだろう。
そしてこの協業でもう一つ重要なのは、マイクロソフトもV-CUBEと類似の機能をもつ「Skype for Business」をラインアップしているにもかかわらず、協業に踏み切ったという点だ。V-CUBEとOffice 365の連携ソリューションを提供することも同時に発表しているが、Skype for Businessにしても、単体のサービスとしてだけでなく、Office 365の一部として利用できるプランもある。

日本マイクロソフトの樋口泰行会長(右)とブイキューブの間下直晃社長 両社は同日、記者会見を開いたが、両社の間に競合関係が存在することについて日本マイクロソフトの樋口泰行会長は、「当社はデバイス事業で競合するiOSやAndroidをサポートしているし、セールスフォース・ドットコムやヴイエムウェアなどとも提携を結んできた。既存事業への影響よりも、ユーザーの利便性を優先して協業していく」とコメント。ブイキューブの間下社長も「企業においてOffice 365はデファクトスタンダードであり、そのプラットフォームと連携できるメリットは大きい。一部競合する機能もあるが、ウェブ会議の普及率は数パーセント。ビジュアルコミュニケーションの市場自体を日本マイクロソフトとともに拡大していく」と述べ、両社にとって協業による効果は大きくWinーWinの関係が構築できるとの見通しを説明した。一部競合する部分があっても、補完による顧客基盤の拡大効果のほうが大きいと判断したということだろう。
Dynamics ERPでも新しい協業のかたち
日本マイクロソフトとブイキューブが協業を発表した翌日の2月3日にも、象徴的な発表があった。パシフィックビジネスコンサルティング(PBC、小林敏樹社長)が、米マイクロソフトのSMB向けERPパッケージ「Microsoft Dynamics NAV」の最新版である「Microsoft Dynamics NAV 2016」の日本版、中国版、香港版、タイ版、ベトナム版を今年4月から販売することを明らかにした。米マイクロソフトは複数のERP製品をラインアップしているが、日本向けにローカライズした製品を日本マイクロソフトが販売しているのは、中堅規模以上の企業向けの「Microsoft Dynamics AX」のみだ。Dynamics NAVは、各国・地域のパートナー企業がローカライズする戦略を採っており、日本では、Dynamics NAVを開発したデンマークのNavisionがマイクロソフトに買収される以前から同製品の導入コンサル、デリバリを手がけてきたPBCがその役割を担っている。
日系企業の海外拠点向けの提案などでは、 Dynamics NAVとDynamics AXがぶつかるケースもあり、マイクロソフトのERP製品を売る地域販社としての日本マイクロソフトとPBCには、競合する部分があるのが実際のところだ。しかし、Dynamics NAVの最新版では、「In Office 365, On Azure, With CRM」のコンセプトのもと、文字通り、Office 365、Azure、Dynamics CRMといった他のマイクロソフト製品との連携機能が大幅に強化され、両社は協業関係を以前よりも深める戦略を採った。日本マイクロソフトの林雅音・Dynamicsビジネス統括本部Dynamicsパートナー営業本部本部長は、次のように説明する。

日本マイクロソフト
林 雅音
本部長 「NAVのビジネスは、パッケージの製造元である米本社が各国のパートナーと直接組んでやる、スピード感とコストパフォーマンスにすぐれたビジネス。日本マイクロソフトの営業が直接売ることはないが、実際には連携するし、一緒に提案することもあり、Office 365、Azure、Dynamics CRMと連携した案件も増えている。NAVとAXと競合する懸念がないといえば嘘になるが、見方を変えれば、PBCとの協業関係を強化することで、より広いお客様にマイクロソフト製品の価値を提供できるようになるのは間違いない」。
一製品だけを取り出せば競合関係が成立するものの、マイクロソフトのクラウドビジネス全体をみたときに、マーケットでのプレゼンスを高めてくれるであろうパートナーと協業を強化するという考え方は、ブイキューブとの協業事例と共通だといえよう。
ERPの領域では、日本マイクロソフトが国産ERPパッケージメーカーの雄であるワークスアプリケーションズともパートナー契約を結び、Dynamics AXの生産管理モジュールをOEM提供するという試みもスタートする。「2年前にサティア・ナデラがCEOに就任し、従来と比べてかなりオープンになった。マイクロソフトだけで閉じるのではなく、マイクロソフト単体ではお届けできない価値を実現できるアライアンスを常に意識している」と、林本部長は説明する。部分的な競合関係を乗り越え、マイクロソフトのクラウド・エコシステムを市場に深く広く浸透させることで、パートナーとWinーWinの関係を築く戦略が着実に結果を出し始めている。