米IBMのバージニア ・ロメッティ会長・社長兼CEOが、自社イベントとしては今年初めての基調講演を行った。IT業界では「デジタル技術によるビジネス変革」が叫ばれて久しいが、ロメッティCEOは、もはやデジタル変革だけで企業が勝ち残ることはできないと指摘。同社の提唱する「コグニティブ・コンピューティング」こそが競争優位性をもたらすと主張した。(日高 彰)

米IBM
バージニア ・ロメッティ
会長・社長兼CEO 2月15日から18日まで、IBMのビジネスパートナー向けイベント「IBM PartnerWorld Leadership Conference(PWLC) 2016」が米フロリダ州オーランドで開催された。ロメッティCEOは16日の朝、「A New Era:Cognitive Business」の演題で登壇し、82か国から集まった約1500人のパートナー企業の幹部を前にスピーチを行った。
ITは単に業務を効率化するためのツールではなく、ビジネスモデルや企業のあり方自体を規定するもの、という主張が聞かれるようになって久しい。対してロメッティCEOは、「皆がデジタルになったら、何が勝敗を分けるのか?」という問いを投げかける。「Airbnb」や「Uber」の成功を引き合いに出し、ビジネスモデルの中心にデジタル技術を据えよ、と説く人は多い。しかし、現代のあらゆる企業にとってデジタル化そのものは土台の部分でしかなく、もはや競合に対する差異化要素にはなり得ないというのがロメッティCEOの見方だ。
先の問いに対するロメッティCEOの答えは、「コグニティブ・コンピューティングの導入」だ。ロメッティCEOは講演のなかで「コグニティブは最も破壊的であり、同時に最もすばらしいチャンスをもたらす」と繰り返し訴え、デジタルの時代においてはコグニティブこそが競争力の源泉になると主張した。
最近はAI(人工知能)の実用化がITのトレンドの一つとなっており、IBMのコグニティブ・コンピューティングもその文脈で話題になることが多い。しかし、ロメッティCEOは講演のなかで「コグニティブはAIを超えるもの」であるとあらためて強調。「コグニティブ・コンピューティングは自然言語を用い、各領域に特化した深い知識をもっており、“なぜそうなるのか”という理由を理解し、学習するシステム。だから、意思決定ができる。視覚や聴覚から入ってくる情報も扱える」と述べ、「認識の」「認知の」という意味をもつ「コグニティブ」を冠している意図を説明した。
また、クラウドが単にITインフラの効率化のために用いられるのではなく、ソフトウェア開発のプラットフォームとして機能するようになったことも、コグニティブ・コンピューティングの進化を後押ししている。IBMの「Watson」はクラウド上で提供され、32の機能がAPIから利用可能となっている。現在36か国から500社・8万人の開発者がWatsonにアクセスしているといい、クラウドがWatsonの利用と進化を加速している。
ロメッティCEOは、「IBMは、ソフトウェアとハードウェアをもつサービスカンパニーと思われているようだが、私が今、IBMがどんな会社かを述べるとすれば、『コグニティブソリューションとクラウドプラットフォームの会社』という説明が適切だと思う」と語り、同社が目指す方向を再定義した。CAMSS(クラウド、アナリティクス、モバイル、セキュリティ、ソーシャル)を重点領域とする戦略は継続するものの、クラウドはすべてのITの基礎となり、コグニティブは個別の企業のみならず産業全体の姿を変えていく力になるとし、パートナー各社にもコグニティブの世界へと飛び込むよう訴えた。