小規模事業者向け業務ソフト最大手の弥生(岡本浩一郎社長)が、クラウド請求書管理サービスのパイオニアともいえるMisocaを買収した。クラウド会計のライバルでもあるfreeeやマネーフォワードをはじめ、お金のやりとりに関わるクラウド業務アプリを提供するベンチャーが、FinTechの分野でも大きな注目を集めるようになっているが、Misocaもそうした企業の一社だ。“王者”弥生は、Misoca買収の先に、新しいマーケットの創出をすでに具体的に構想している。(本多和幸)
お互いに同じ世界を目指していた

岡本浩一郎
社長 Misocaがクラウド請求書管理サービスの「Misoca」を始めたのは、2011年11月と4年以上前に遡る。当時はまだスタンドファームという社名で、受託開発業務などと平行して自社サービスのMisocaを提供していたが、13年に外部から資金調達し、これを境にMisoca事業にリソースを集中させ、ユーザーも本格的に増え始めた。今年2月現在で、登録ユーザー数は8万8000まで増えている。
競合としてはメイクリープスなどが挙げられるが、注目すべきは、近年、クラウド会計のfreeeやマネーフォワードもそこに名を連ねたことだ。とくにマネーフォワードは、2月末に「MFクラウド請求書」のユーザー数が10万を突破したと発表し、注力ぶりを鮮明にしている。つまりクラウド請求書管理の市場は、Misocaのような専業ベンダーと、クラウド業務ソフトの“総合ベンダー”ともいえるfreeeやマネーフォワードがしのぎを削っている状況にあったわけだ。ただしMisocaは、freeeやマネーフォワード、弥生、アカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS)の会計ソフトとのデータ連携を実現している。クラウド請求書管理で競合するベンダーの製品であっても、個人事業主や小規模事業者向けの有力な会計ソフトとオープンに連携できることがMisocaの大きな特徴といえる。他社に先がけてサービスを提供してきたことも大きく影響しているだろうが、実際に、会計ソフトはfreeeやマネーフォワードの製品を使いつつ、請求書管理はMisocaを使い、データを会計ソフト側に転送して入金管理などを行うユーザーも少なくない。
一方、弥生は、15年7月に「弥生会計オンライン」を世に出し、会計領域のクラウド商材はほぼフルラインアップといってもいい状態になった。クラウドで先行するfreeeやマネーフォワードと同様、弥生にも、当初からクラウド会計の次はクラウド請求書管理サービスを開発する計画があり、それを具現化しようという段階で、Misocaの買収話が進んだ。岡本社長は、「14年1月にMisocaとの連携を開始したが、いずれぶつかることになるのはお互いわかっていた。いよいよ当社が請求書管理に着手することになり、それをMisoca側に伝えて、将来の構想なども明かしたところ、お互いに目指している世界が近いことがわかったので、両社の技術・サービスと顧客基盤を融合してうまく生かしていくべきだという結論に至った」と振り返る。
両社が共通して目指す世界とは具体的に何か。岡本社長は、「簡単にいうと、SMB(中堅・中小企業)向けEDIを実現したい」と話す。「クラウドアプリで請求書を発行・管理できるようにするのは、入り口に過ぎない。見積もりから発注、納品、請求、入金消し込みといった取引の流れを一気通貫で電子化する仕組みをつくりたかった。大企業はこれをEDIで実現しているが、コストの問題があって、SMBはこういう世界から完全に取り残されている。本来は、リソースが限られるSMBこそメリットが大きいはず」。
年内に新サービスを世に出す
ただ、「SMB向けEDI」の世界が広がっていくには、受注側、発注側の両方がそうした機能を使うことができる環境が必要だ。つまり、新しい市場を開拓していく商材であるにもかかわらず、はじめからある程度“みんなが使っている”状況をつくらなければならない難しさがある。その観点からも、「車輪が回転を始めるための顧客基盤をすでにもっている」(岡本社長)両社の融合は大きな意義があるという。freeeやマネーフォワードが急成長しているとはいえ、デスクトップ版パッケージで実績のある弥生の登録ユーザー数は137万以上で、まだまだ王者の座は揺るぎない。調査会社のデータなどから、クラウドアプリでも実利用数はナンバーワンになったという手応えも感じている。さらに岡本社長は、一見するとユーザー数はマネーフォワードに抜かれたようにみえるMisocaについても、「Misoca上で処理されている請求金額は月間で100億円を超えている」と、ユーザー数以上に、ビジネス上の取引のプラットフォームとしての活発な稼働状況を高く評価する。
Misocaの豊吉隆一郎代表取締役は、今後も同社の経営の舵取りを担い、Misocaブランドも継続する。freeeやマネーフォワードのクラウド会計との連携も、「Misocaのユーザーからは、これまでどおり使えるのか心配する声も一部上がっていたが、少なくともこちらから連携を止めるといい出すことはない」(岡本社長)という。
両社の融合の成果として、ユーザー認証の一元化などは短期間で実現する意向だ。さらに、本丸ともいえるSMB向けEDIのコンセプトを実現する具体的な商材の開発も、Misocaのエンジニアが中心になって急ピッチで進め、年内にはリリースする。来年4月の消費税改正と軽減税率の適用を見据えたスケジュールだ。岡本社長は次のように説明する。「軽減税率をきっかけに、今まで手作業でこなしてきた業務に限界を感じて、ITツール、システム、サービスを活用して生産性を上げていこうという動きがSMBでも加速するだろう。クラウドベースで軽減税率に対応した請求書管理ができて、入金の消し込みなども含めてカバーできる仕組みを何とか年内にはつくりたい。来年4月に本当に税率改正があるかどうかは不透明なところもあるが、準備はしなければならないし、運用の準備に必要な時間を考慮すると、時間軸としてはそのくらいが妥当。理想型まではいかなくても、一つの新しい世界は示したいと考えている」。
クラウド会計ソフトのベンダーは、金融機関と連携した新しいFinTechサービスの担い手としても注目されている。弥生の親会社であるオリックスも、ブロックチェーンの実証実験など、FinTech分野で新しいビジネスを模索する取り組みを始めている。今回のMisoca買収は、弥生がFinTechサービスベンダーとして新しいビジネスを始めるための布石にもなりそうだ。