【北京発】中国で日立製作所(東原敏昭社長兼COO)のビッグデータ事業が好調だ。本格的に同事業を開始した2012年当初に比べ、現在の案件数は5倍程度に増加した。顧客層も中国の日立グループ企業や日系企業のみならず、ローカル企業にまで広がっている。中国政府は、20年までの「第13次5か年計画」にビッグデータ活用の促進を盛り込んだ。今後、さらに商機が拡大する可能性が高い。(上海支局 真鍋 武)
関心がない企業はない

鈴木友峰
信息通信系統統括本部
軟件事業推進部総経理 「ビッグデータ案件は、入れ食い状態に近い。データを保有している企業で関心をもっていないところはない」。日立(中国)の鈴木友峰・信息通信系統統括本部軟件事業推進部総経理は、現状をこのように説明する。中国の経済成長と市場拡大に伴い、企業が抱えるデータ量は膨大化。中国国務院は昨年9月に「ビッグデータ発展促進行動要綱」を公表し、全国レベルでビッグデータ活用を進める方針を示した。自動車産業など、すでに大量のデータをもつ企業では、ビッグデータ活用への関心が高まっている。鈴木総経理は、「SEや営業を通して、顧客からの引き合いが毎日のようにきている」と続ける。
日立(中国)では、データ分析などのコンサルティングや、その後の活用に向けたアプリケーション開発、システム構築、導入・サポートと、ビッグデータ関連サービスをトータルで提供している。中国統括会社の日立(中国)が全体を指揮し、日立データシステムズ(HDS)や北京日立華勝信息系統(BHH)、日立解決方案(中国)、日立系統(広州)など、中国の情報通信システム部門の各事業会社が連携して展開するモデルだ。このうち、ビッグデータ活用の入り口となる分析などのコンサルティングに現在はもっとも力を注いでいる。鈴木総経理は、「ほとんどの企業は、データを保有していても、どう活用していいかわからない状況にある。まずはこれを見える化し、顧客の業務知識とかけ合わせたうえで、その後のデータ活用のあり方を決めていく。これが中国での典型パターンだ」と説明。例えば、中国の日立グループでは、エレベータや建機、ATMなどの各事業会社が保有する顧客やセンサのデータを分析し、新製品・サービスの開発や保守・点検業務などの業務効率化につなげている。
日立製品にこだわらない
ただし、コンサルティング後のビッグデータ基盤の構築・導入にあたっては、日立製品の採用にこだわらない。現在、提供しているものは、ほとんどがオープンソースを活用したものだ。「基盤はOpenStack、データ処理はHadoopやHbase、Spark、Stormなどで、BIは買収したPentaho、運用管理もGangliaなどを利用する。有償の日立製品といえば、Cosminexusや時系列DBくらいで、サーバーやストレージもファーウェイやデル製品を使用することが多い」(同)。
これには、過去の反省がある。日立(中国)はビッグデータ事業の開始当初、自社製のミドルウェアやハードウェアの提案を主軸に置いた。しかし、「中国では有償のソフトウェアを購入する文化が浸透しておらず、ハードも地場ベンダーが格安で提供している。顧客には、わざわざ日立製品を選ぶ理由が乏しく、苦戦した」(同)という。そこで、コンサルティング重視に方向転換した。データ活用法がわからない企業が多いため、結果として案件は増加。鈴木総経理は、「ハードは儲からないが、コンサルティングは、ノウハウがたまってくれば利益率が70~80%と非常に高い」と話す。
一方で、コンサルティングやOSSベースのビッグデータ基盤だと、日立の特色を出しづらく、競合との差異化が図りづらい。鈴木総経理は、「案件獲得のカギとなるのは、顧客との信頼関係だ。顧客と接するSEや営業が、どれだけの関係を構築しているのかで、このビジネスの80~90%が決まる」と説明する。顧客のすべての情報が詰まったデータを開示してもらうには、強固な信頼関係が不可欠。そこで、これまでは関係を構築しやすい日立グループ企業や、自動車業や化粧品業など、大量データを抱えるコンシューマ系の日系企業を中心に顧客を開拓してきた。
切り札はAI
だが、最近では強力な差異化要因が育ってきた。例えば、独自の人工知能(AI)サービス「Hitachi AI Technology/業務改革サービス」だ。これは、顧客がもつ大量・多様なデータを日立のAI技術で分析し、専門家でも思いつかないような業績向上につながる仮説を導き出すもの。あるコールセンターでは、スタッフが昼休みに情報交換を行う活発度が増せば受注率が向上するという仮説を導き出した。実際、仮説通りにしたところ、このコールセンターの受注率は13%伸びたという。
中国では、まだ人工知能サービスを提供しているベンダーがほとんどない。鈴木総経理は、「分析をして基盤を構築した後は、自分たちでデータ活用を推進する顧客もあり、とくにローカル企業ではこの傾向が強い。顧客に逃げられないようするための、次の商材としてAIに期待している」と話す。
実際、ローカル企業の案件は着実に増えてきた。政府が指導意見を公表して以降、「ビッグデータを活用しようという勢いがすごくあり、ローカル企業を顧客としている地場SIerからの相談が増えている」(同)。中国では、ファーウェイやアリババなどの一部大手ITベンダーを除き、OpenStackやHadoopなどのビッグデータ関連技術をまだ十分に取り入れていないSIerが多い。これに加え、日立は人工知能などの独自技術を有している。地場SIerからすれば、ビッグデータ技術に強い日立と組むことで、ローカル企業に提案できる付加価値を向上できるというわけだ。日立にとっても、すでにローカル企業と近い距離にある地場SIerを通した方が、顧客にデータを開示してもらいやすいため、Win-Winの関係を構築できる。
3月16日、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、20年までの「第13次5か年計画」が採択された。同計画には、ビッグデータ活用の推進が盛り込まれている。「2015年中国大数据産業白書」によると、20年の中国ビッグデータ市場規模は、14年比約10.8倍の8228億8100万元に拡大する見込みだ。鈴木総経理は、「今年はローカル企業の顧客が大きく増える。日立グループや日系企業で培ってきたノウハウを政府系や交通系、電力系などのローカル企業に展開していきたい」と意欲を示す。