日本マイクロソフト(平野拓也社長)は、4月7日、国内のISV向けに、既存アプリケーションのクラウド化を支援する「クラウド スターター パック」の提供を始めた。「Microsoft Azure」によるクラウドプラットフォーム環境と、クラウド移行支援のための包括的なサービスを一体で提供する。とくに中小の国産ベンダーが開発・提供する業務アプリケーションは、現在でもクラウド未対応のものが少なくない。クラウド スターター パックは、彼らのスピーディなクラウド化を支援し、国産業務アプリケーション市場の活性化を後押しするとともに、マイクロソフトのクラウドサービスのユーザーベースとパートナーエコシステム拡大も加速させる戦略製品だ。(本多和幸)
とにかく早くクラウド化に着手を

佐藤恭平
業務執行役員 クラウド スターター パックの内容をみると、Azureのボリュームライセンス契約に、オンサイトでの3日間の技術トレーニング、アプリケーションのクラウド移行に伴うビジネスモデル変革や技術的な検証を支援するサービス、日本マイクロソフトによる販売プロモーション支援サービスがセットになっている(詳細は表を参照)。価格は税別320万円で、5月31日までに申し込んだ場合は、同200万円で提供するというキャンペーンも、サービスリリースと同時に発表した。
Azureによるクラウド化を進めるメリットとしては、クリティカルな業務システムの運用に耐え得るデータセンターを、東日本、西日本の国内2か所に整備していることに加え、Windowsベースのアプリケーションだけでなく、LinuxやJavaなどもサポートし、多くのISVが既存資産を生かしたかたちでクラウド化できる点も、広く周知していきたい考えだ。また、Active DirectoryによるID、アクセス管理で、Office 365など他のクラウドサービスとのシングルサインオンを実現できるほか、Azure IoT Suiteなど、Azure上のさまざまなサービスも活用可能だ。アイデア次第で、ISVが自社アプリケーションに付加価値を上乗せしたソリューションを簡単に構築できるというわけだ。
同製品を開発した背景について、佐藤恭平・業務執行役員パートナーセールス統括本部統括本部長は、次のように説明する。
「ヒアリング調査をしてみると、国内のISVには、クラウドをベースにしたアプリケーション開発に踏み出したいけれども踏み出せないというケースが多い。確かに当社の場合も、従来は、Azureの情報が散在してしまっていたし、実際に利用していただくにはさまざまなトレーニングが必要で、わかりにくい部分があった。ISVへの情報提供も、営業パーソン個人のスキルセットに依存していたのは事実で、もっと広く国内ISVの皆さんにAzureを活用してもらうべく、パッケージとしてサービスを提供することにした。クラウド化のニーズは、大都市圏、地方を問わずこの1年で急速に高まっていて、既存の資産をできるだけ生かしながらクラウドに対応することが、全国のISVにとって喫緊の経営課題になっている。早期割引キャンペーンを用意したのも、とにかく早くクラウド化に着手していただくことが大事だと考えているから」。
日本マイクロソフトは、クラウドパートナーの拡大を急速に進めているが、重点施策として、「ISVのクラウド化」に取り組む方針を示している。ある程度のビジネス規模がある有力ISVについては、個別にAzure対応などを促してきたが、クラウド スターター パックには、Azureユーザーの拡大とともに、ISVパートナーの裾野を広げるという狙いもある。
リセラーとのマッチングも
当面の目標は、向こう1年間で「200アプリケーションのクラウド対応支援」だが、これはあくまでも「必達目標であり、当然、それ以上の成果を狙う」(佐藤業務執行役員)という。そのための施策として、クラウド移行後のアプリケーションのマーケティングや販売の支援にはとくに力を入れていく方針だ。
クラウド スターター パックのサービスメニューには、もともと販売プロモーション支援が含まれているが、基本メニューは、クラウド化したアプリケーションのデジタルカタログサイトへの掲載とAzure Marketplace上での販売に限られる。日本マイクロソフトは、クラウド スターター パックを活用してクラウドシフトを果たしたISVに対しては、同社エコシステムの総合力を生かし、さらに踏み込んた支援を検討している。佐藤業務執行役員は、「ISVは、営業力に課題があるところも多いので、共同セミナーを企画したり、場合によってはマイクロソフトの直販営業との共同セリングも視野に入れている。個別でいろいろな仕掛けを考えるケースも出てくるだろうと考えている。さらには、ラージリセラーや特定の地域や業界で力のあるリセラーと引き合わせたり、リセールパートナーとのマッチングも積極的にやっていくつもりだ。一回エンジンがかかって回り始めれば、こうした当社のエコシステムは、パートナーにとっても、当社自身にとっても、ビジネス拡大の大きな推進力になる」と意気込む。
また、クラウド スターター パックの技術トレーニングや移行支援サービスは、同社の認定パートナーが担当することになるが、クラウド スターター パックのユーザー開拓も、そうしたパートナーと協業していく考えだ。ISVがメインの業態ではなくても、SIerなどで、ニッチなニーズ向けに特色のある自社パッケージをもっているベンダーに対しては、クラウド スターター パックの活用を積極的に働きかけていく。
佐藤業務執行役員は、「ISVのクラウド化は、日本の業務アプリケーション市場の活性化という意味でも必要なこと。クラウドネイティブなSaaSベンダーもどんどん成長しているが、クラウド スターター パックは、オンプレミスでビジネスをしてきたISVが彼らと競争していくための助けにもなると考えている」と話す。既存のISVにとっては、エコシステムや支援メニューの充実度からいっても、マイクロソフトのクラウドサービスが、競合のクラウドサービスに比べて受け入れやすいのは確かだろう。日本マイクロソフトにとっては、その価値をいかに適切なかたちで広く周知できるかが、目的達成の可否を左右するポイントになりそうだ。