双日システムズ(南部匠社長)は4月、EAI(データ連携ツール)ベンダーのマジックソフトウェア・ジャパン(佐藤敏雄社長)とAWS(Amazon Web Services)特化のクラウドサービスを展開するアイディーエス(中野貴志社長)と協業し、同社初のクラウドサービスを開始した。これまで同社は、オンプレミスでERP(統合基幹業務システム)中心の周辺システムを中堅・大手企業向けに提供する開発が主力事業だった。今回提供を開始したクラウドサービスは、年商規模が小さい50~100億円の企業が対象だ。市場規模の大きい領域に本格参入し事業を拡大する。価格の安さや開発の迅速さ、カスタマイズ性の高さなどを売りに発売から1年で30社の導入を目指す。(取材・文/谷畑良胤)
最短1週間で環境を提供
双日システムズが提供を開始したクラウドサービス「PolarisGate(ポラリス・ゲート)」は、基幹システムやクラウドサービス間のデータ連携をノンプログラミングで実現するマジックソフトウェアのEAIツール「Magic xpi」を、AWS上で稼働させたサブスクリプション型のサービスだ。AWSのサーバー運用は、AWSに特化したクラウドサービス「サニークラウド」を運営するアイディーエスが担う。
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成塚健次
エンタープライズ
ソリューション本部
事業戦略室
技術リーダー 同サービスは、クラウドや社内システム間をつなぎ、データ収集や解析をエンドユーザー側で簡単で安価に使える環境をパブリッククラウド型で提供する。例えば、SAPのERPシステムとセールスフォース・ドットコムのクラウドサービスをデータ連携することや、サイボウズの「kintone」で生成したデータと会計システムのクラウドをリアルタイムに連携するといったケースにおいて、PolarisGateを活用するイメージだ。
同社は同クラウドサービスの利用料収入に加え、基幹システムで培った技術・ノウハウを生かし、各システム・サービス間のデータの流れを定義するフローの作成、フローを作成する開発環境やフローを管理し、データ連携を実行する環境の提供で売り上げを確保する。同サービスを担当する成塚健次・エンタープライズソリューション本部事業戦略室技術リーダーは、「自社でサーバーを構築する調達時間が削減でき、サーバーの環境設定やソフトウェアのインストールの作業時間も軽減できる。最短1週間で環境提供ができる」と、パブリッククラウドでの提供を可能にしたことで、EAIツールをスモールスタートで導入したいユーザー企業にメリットがあると強調する。
攻撃的な価格で市場開拓
同クラウドサービスは、AWS上のサーバーを複数ユーザーでシェアするマルチテナント方式で、Magic xpiの特徴である同時実行スレッド単位の課金体系を採用している。価格は、実行環境の構築や設定費用で初期費用が30万円、月額費用が最小3スレッドで3万円からとなっている。最短の契約期間が1か月なので、期間限定で安価にデータ連携を導入し、トライアルでも利用ができる。成塚技術リーダーは、「スペックを落とすことなく、マルチテナント方式などで工夫して1社あたりの費用を減らした」と話す。
一般的なデータ連携ツールは、処理命令を起動するためのイベントのトリガー数に応じた課金体系が多い。トリガー数で課金すると、システム間の連携数が増えるごとに月額利用料が発生し、費用が増えてしまう。「攻撃的な価格を提供した」(成塚技術リーダー)と、これまでの主要顧客と異なる中堅・中小企業の開拓に価格面でもメリットを打ち出す。
同クラウドサービスの提供を4月に開始した同社は、6月までを「スタートアップフェーズ」としてパートナー募集を開始。このデータ連携クラウドを販売するセールスパートナーと同環境を使ってシステム構築するソリューションパートナーの獲得を目指す。同社によれば、オービックビジネスコンサルタント(OBC)やピー・シー・エー(PCA)、応研など中堅・中小企業に強みのある会計ベンダーのオンプレミスやクラウドを販売するシステムインテグレータ(SIer)を最初の対象にしているという。7月からは、パートナーと共同で本格的にサービス展開を始める計画だ。
中堅・中小企業でも、基幹システムとクラウドサービス、あるいは他の情報系システムなどと連携するニーズが高まっている。オンプレミスのデータ連携ツールの初期費用が大きいため、導入できなかった企業にとって、同社のクラウドサービスが光明になる可能性がある。SIerにとっても新たなビジネス機会を生み出すことができそうだ。