クラウド業務アプリケーションベンダーのfreee(佐々木大輔代表取締役)が、従業員数500人規模までの中堅企業向けにクラウドERPの提供を開始すると発表した。同時に、「むこう5年で30万事業所をユーザーとして獲得する」という目標も掲げている。国内中堅・中小企業の基幹システム市場は、老舗の国産業務ソフトパッケージメーカーが大きな存在感を発揮し、勢力図に長い間変化がなかった市場だ。従来の小規模・零細事業者向け製品にとどまらず、“難攻不落”の市場に踏み出したfreeeの勝算はいかに──。(本多和幸)
テクノロジーによる効率化・統合化が遅れている
freeeは6月1日から、従来の「クラウド会計ソフト freee」に権限管理や管理会計の機能を強化した「ビジネスプラン」を提供している。これに「クラウド給与計算ソフト freee」を合わせて導入することで、中堅規模、具体的には従業員数500人規模のユーザーまで対応したクラウドERP機能を実現するというコンセプトだ。今回発表したビジネスプランは、ERPの財務会計、販売管理モジュールに相当するという。

佐々木大輔
代表取締役 これまでfreeeが主戦場としてきたのは、個人事業主や小規模・零細企業といった、いわゆる「スモールビジネス」の領域だ。ここから中堅企業向けの基幹システム市場に足を踏み出した背景について、佐々木代表取締役は、次のように説明する。「中堅企業向けの基幹システム市場は、テクノロジーによる効率化・統合化がもっとも遅れている、ホワイトスペースが広がっている市場。ほとんどクラウド化が進んでいないし、基幹システム内のデータを広く横断的に活用していくという考え方が浸透していない。会計以外の業務ソフトを導入しているユーザーも、必要に応じてポイントソリューションを都度導入するかたちになっていて、会計システムとの連携に開発やツールの導入が別途必要だったり、ERPパッケージを導入しようにも高すぎて費用対効果が見合わないという状況が続いてきた」。これに対してfreeeは、「クラウドならでのスケーラビリティを生かし、共通のアカウントで複数の機能をネイティブに連動できるアプリケーション群をつくってきた。もちろん、マルチデバイスにも対応しているし、取引先とのやりとりも含めてクラウドで完結できるプラットフォームづくりを進めてきた。大企業向けのERPを使わないと享受できなかったようなメリットを、非常に低コストで提供するという世界を、すでに半ば実現している」として、従来の中堅・中小企業向け基幹システム市場の課題を解決できると強調する。
現在のところ、クラウド会計ソフト freee・ビジネスプランの財務会計、販売管理モジュールのほか、クラウド給与計算ソフト freeeは給与計算、勤怠管理機能も備えているが、今後、人事、労務管理、在庫管理、物流、生産管理といったモジュールも開発するとともに、既存機能のブラッシュアップも進め、中堅企業のビジネス要件に対応できる、より網羅的なERPとしての機能を整備していく計画だ。
ついに代理店販売にも踏み出す方針だが……
これまでの中堅・中小企業向けの業務ソフト市場をみると、小規模ユーザー向けでは弥生が圧倒的な強さを誇るが、近年、freeeやマネーフォワードと熾烈な競争を繰り広げている。より中堅規模に近いユーザー層向けでは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)を筆頭に、ピー・シー・エー(PCA)、応研、OSKといった老舗の業務ソフトメーカーが大きなシェアを獲得しているが、freeeは今後、彼らに真っ向勝負を挑んでいくことになる。今回発表したクラウド会計ソフト freeeのビジネスプランは、月額利用料が1社3980円で、1ユーザーごとに同300円の利用料がかかるが、確かに、コストに関しては既存の業務ソフトメーカーにとって脅威になるであろう「戦略的な価格設定」だ。佐々木代表取締役は、「既存の会計パッケージの少なくとも4分の1以下のコストで、より業務効率を高めるソリューションを提供できる」と自信をみせる。
freeeは、5年で30万ユーザーを獲得するという意欲的な目標を掲げている。これが実現すれば、市場の勢力図は大きく変わる。ただ、OBCをはじめとする既存の有力業務ソフトメーカーは、中堅・中小企業向けのIT市場で大きな顧客基盤をもつ大手事務機メーカー系販社や事務機ディーラー、中小SIer、ISVなどと強固なパートナーエコシステムを構築することで成長してきたという経緯もある。こうした市場構造が、業務ソフト市場への新規参入を阻む壁として機能してきたことは否定できないが、freeeはこれにどう対峙しようとしているのか。佐々木代表取締役は、「これまで注力してきたウェブマーケティングと直販営業の組み合わせは中堅規模のユーザー向けビジネスでもすでにかなり機能しているし、2600社に達した認定アドバイザーの会計事務所も、重要なパートナー。まずはこの二つのチャネルで、30万ユーザーの3分の2はおさえられると考えている。残りの3分の1は、代理店販売を考えていく」と話す。サービス提供のコストを下げるために、マーケティングやセールスでも徹底的に効率を追求し、ウェブマーケティングの精緻化によるインバウンドのリード獲得、そしてダイレクト営業にこだわってきた同社が、会計事務所経由に加え、代理店による間接販売でスケールアウトするビジネスモデルをどのように構築するのかは注目に値する。
ただし、新時代のITスタートアップの旗手らしく、佐々木代表取締役は既存の市場構造が変わりつつあり、freeeにとってはあくまでもウェブマーケティングとダイレクト営業が生命線であり続けるとも考えている。それは、佐々木代表取締役が、事務機ディーラーなどの顧客基盤がどれだけ強固かという点に疑問をもっているからだ。「これまで事務機ディーラー経由で業務ソフトを買っていたお客さんが、これからも彼らから買いたいと思っているのか、われわれは懐疑的だ。というのも、過去、かなりの規模のお客様にfreeeを基幹システムの選択肢として検討したいという引き合いをインバウンドでいただいて、結果、内部統制の要件がマッチしなくて採用いただけなかった例なども実際にあって、それが今回のビジネスプラン開発につながっている。こうした事例を踏まえれば、オンラインのマーケティングでもやりきれていないことはたくさんあるはず」(佐々木代表取締役)。
スモールビジネス向けの業務ソフト市場の変革をリードしてきたfreeeが、中小・中堅企業向け業務ソフト市場も変えることになるのか、それとも返り討ちにあうのか、既存プレイヤーの競合各社の動きも含めて目が離せない。