7月22日、IT業界の53団体(下表参照)・約5000社が参画する「日本IT団体連盟」が発足した。IT産業の振興に「官民一体」となって取り組む体制をつくるため、これまで横のつながりが不足していたIT業界の諸団体を束ね、業界共通の課題に関する政策提言を行うのが目的。2030年に約59万人が不足するとされるIT人材の育成に、活動の重点をおいている。(日高 彰)

左から荻原紀男幹事長、酒井雅美副会長、長谷川亘筆頭副会長、宮坂学会長、
齋藤光仁副会長、別所直哉専務理事(7月22日・経団連ホール)
日本IT団体連盟(以下、IT連盟)設立の背景には、これまでIT業界として政府に対する政策提言を十分に行ってこなかった点が挙げられている。IT業界では、受託開発、パッケージソフト、インターネットサービスといったそれぞれのビジネスが独立しており、異業種との交流の必然性が薄かった。IT連盟によると、ITに関係する団体は国内に100以上が存在するというが、専門性をもつ各団体が独自に活動してきたため、IT業界の外側からみると、業界にとって何が課題で、どんな政策が求められているのかわかりにくいという問題があった。
成長戦略の柱の一つにITを据える日本政府に対して、IT業界の意見をきちんと伝えていくため、業界に横串を通すことがIT連盟の最大の目的となっている。業界が一枚岩となって課題の整理と解決に取り組む姿勢を明確化するため、個別企業が直接加盟する団体を新たに設立するのではなく、「IT団体を束ねる団体」の形をとっているのが特徴だ。
代表理事兼会長にはヤフーの宮坂学社長が抜擢された。ヤフーは国内のIT市場において代表的な企業でありながら、今回の加盟各団体に対して比較的中立的な立場にいるほか、“業界の顔”として、48歳という宮坂氏の若さにも期待が寄せられている模様。IT連盟会長としての宮坂氏は、ヤフーという企業からはあくまで独立した立場であるとし、「Yahoo!基金理事長」の肩書きで参加する。
連盟発足日の夕方には、宮坂会長をはじめ6名の理事が登壇して記者会見を開催し、IT連盟の活動目的を発表した。連盟が最も大きな課題と考えているのは、IT人材の不足だ。宮坂会長は、人材不足は今後さらに深刻化し、2030年には約59万人が不足すると予測した経済産業省の調査結果に触れながら、「日本が国際競争力を取り戻すにはITが重要と確信している。『人がいないからITができない』とは言えない」と危機感を強調。業界にどんな人材が必要で、どのような政策が求められているかを政府に提言するとともに、IT連盟としても加盟団体が共同で、人材育成や若い世代へのIT教育振興に取り組んでいく方針だ。
この日の記者会見では、活動説明の大半が人材育成関連に費やされ、規制緩和推進などについてはほとんど語られなかったが、会見後、報道陣の質問に答えた荻原紀男理事兼幹事長は、「ドローンの利用などに関わる、規制緩和やルールの整備などにも取り組んでいきたい」と話し、IT関連の法制度に関しても提言を図っていく考えを示した。ITの世界では、新しい技術の登場に法制度の整備が追いつかない状況がしばしば発生するが、社会との整合性を保ちながら産業振興につながる提言を、専門的見地から行っていけるかが注目される。
IT企業による政策提言を目的とした業界団体には、楽天の三木谷浩史社長が代表理事を務める新経済連盟(新経連)があるが、宮坂会長は「新経連はより幅広い活動をしているが、われわれはIT関連に絞って活動する」と方針の違いを説明。ただ、「ITでこの国をよくしていくという目的は同じ」と述べ、協調・連携の可能性を否定せず、新経連のIT連盟への加盟も歓迎するとした。また、前身団体から数えると46年の歴史があり、大手SIerを中心に500社あまりが加盟する情報サービス産業協会(JISA)は、現在のところIT連盟には不参加の方針。“業界一丸”とするにはJISAの加盟が不可欠である。荻原幹事長は「引き続きJISAを含め、他のIT団体にも加盟を呼びかけていく」と話し、IT連盟側としては常に“ドアはオープン”であるとの姿勢をみせている。