ソニーのPC事業が独立して生まれた「VAIO」が、今年7月で2周年を迎えた。同社ではこれを記念して、高度な設計・製造技術を集約した本社・安曇野工場(長野県安曇野市)を報道関係者に向けて公開。商品企画からアフターサポートまでを国内の単一拠点で提供できる強みをアピールした。(取材・文/日高 彰)

ソニーの生産拠点を継承したVAIO本社
VAIOが本社を置く安曇野工場は、1961年に東洋通信工業豊科工場として創業、その後ソニーの製造子会社となり、古くはオーディオ関連製品、80年代からはMSXパソコンやワークステーションの「NEWS」、97年からはVAIO、99年には家庭用ロボット「AIBO」の生産を行うなど、ソニーのIT製品の開発・製造拠点として歴史を重ねてきた。2014年7月、ソニーからVAIOへのPC事業譲渡にともない、この工場も新会社へと継承された。

大田義実
社長 昨年6月、2代目社長に就任した大田義実氏は「設計、製造、品質保証まで、ものづくりに必要なすべての機能をここに備えている」と話し、設計部門と製造の現場が同じ拠点にあるのは同業他社と比べても珍しい例と強調する。単にハイスペックな製品をつくるだけでなく、試作段階から製造上の課題を設計にすぐフィードバックできるので、不良率を下げるとともに、製造時の作業効率を向上させることが可能。結果としてコスト削減にもつながるなど、ものづくりのプロセス全体を最適化できる点が同社の優位性になっているという。製品への電磁波の影響や、無線通信機能の性能、物理的な耐久性などを評価する各種設備も充実しており、安全性・信頼性向上のため開発者が存分に試験を実施できる環境を整えている。
この強みは、現在のVAIOがPC事業に次ぐコアビジネスとしているEMS(受託製造)事業にもそのまま生かされている。富士ソフトのロボット「Palmi」やMoffのウェアラブル玩具「MoffBand」など、新規事業に取り組む企業がVAIOの製造能力を活用してハードウェア開発を成功させている。社名は明かせないものの、大手企業からの引き合いも絶えないといい、VAIOが独立2年目にして営業黒字化を達成したことには、EMS事業の伸長も大きく貢献している。

3m法電波暗室など、充実した試験・評価設備(写真提供:VAIO)
同社のEMSでは、モバイルPCで培った高密度な部品実装技術や組立技術だけではなく、製造の効率や信頼性を高めるためのノウハウを設計段階から提供するほか、必要であればサポートデスクや修理サービスも請け負うのが特徴。スタートアップ企業やIoT関連の新規事業など、立ち上げ時点で大規模な投資が行えないビジネスの展開にとくに適している。

宮澤宗弘
安曇野市長 また、今回の公開には地元の宮澤宗弘・安曇野市長も駆けつけ、「産業振興を図って雇用を確保するのが市の使命。世界のソニーが撤退するとなり大変心配したが、VAIOが引き受けてくれてホッとした」とコメント。市では、VAIOのPCをふるさと納税(寄付)の返礼品に採用しており、昨年度は申し込みが1591台に上った。今年4月、総務省は各自治体に対し換金性の高い返礼品の自粛を通達しているが、安曇野市では「商品券などとは異なり、あくまで地場の特産品の提供」と判断しており、宮澤市長は今後もVAIO製品を返礼品とした寄付受付の継続を明言した。