スモールビジネス向け業務ソフト大手の弥生(岡本浩一郎社長)が、会計事務所向け製品「弥生会計 17 AE」の最新バージョンをリリースし、クラウド会計ソフトの「弥生会計 オンライン」とのデータ共有機能を新たに備えた。同社はこれにより、法人向けクラウド会計ソフト市場の拡大を後押ししたい考えだ。(本多和幸)

岡本浩一郎
社長 クラウド会計ソフト市場は、freeeやマネーフォワードといった新興ベンダーが市場を切り開いてきた。直近の発表では、登録ベースのユーザー数はfreeeが60万事業所、マネーフォワードのMFクラウドが50万事業所と、少なくとも数字上は急成長を遂げている。従来スモールビジネス向け業務ソフトで圧倒的な強さを誇ってきた弥生の登録ユーザー数が140万弱であることを考えれば、驚異的ともいえる数字だ。
一方で、登録ユーザー数における個人事業主と法人の割合や、アクティブユーザーの実数などは明らかにしておらず、弥生の岡本社長は、かねてから「彼らの出す数字は市場の実態を反映していない」と批判してきた経緯がある。弥生は2014年にクラウド会計に進出して以降、自社のクラウドビジネスの伸長に関するデータとも照らし合わせ、市場の実態をなるべく精緻に把握するための取り組みを重ねてきた。その結果、「クラウド会計の市場は、個人事業主では普及率3~4%(全個人事業主が母数)、利用ユーザーが10万強。ベンダーからみると黒字化は難しいが市場としては成立してきている。一方で、法人向けのクラウド会計はユーザー数が1万前後、利用率は1%にも満たないと推測される」(岡本社長)という。
つまり、法人向けクラウド会計の市場はまだまだ黎明期にあるということだが、その原因として岡本社長が指摘するのが、会計事務所の動向だ。「法人の約8割は記帳、決算、税務申告、会計業務などの一部を会計事務所に委託しているため、会計ソフトの導入に際して、会計事務所のアドバイスが意思決定に及ぼす影響が大きい。そして、会計事務所側が重視するのは、自分たちが使っている会計ソフトといかにスムーズに連携できるかという点。その意味で、クラウド会計への対応には慎重な会計事務所がまだまだ多く、比較的ITに対する意識の高い弥生の会計事務所パートナーであるPAP会員であっても、クラウド会計を顧問先に積極的に勧めている事務所は10%程度にとどまっている。ユーザー側からの要望による“消極的推奨”は多いが、原則としてクラウド非対応の事務所が多数派だ。また、サービスの継続性や操作性、動作速度などへの不安・不満からクラウド会計を推奨しないケースもみられる」(岡本社長)。
2014年の日本税理士会連合会の調査によれば、会計事務所で使われている会計ソフトのベンダーで、最もシェアが高かったのが弥生だったという。岡本社長は、弥生会計 17 AEで弥生会計 オンラインとのデータ共有機能を実現したことで、こうした会計事務所側の壁を突き崩し、法人向けクラウド会計の普及を加速させることができると考えているようだ。「会計事務所でのシェアを考えれば、結局、弥生との連携がスムーズなクラウド会計でないと、顧問先企業側に広がっていかないことになる。17 AEの機能強化は、その突破口になり得る。」と、岡本社長は力を込める。
一方で、岡本社長が指摘したクラウド会計の課題は、テクノロジーの進化により解決し得るものも多い。製品の機能性という面でも急速な進化を遂げてきた新興クラウド会計ベンダーがどんな回答をこれから市場に出していくのも注視すべきだろう。