クラウドベンダーのなかで、直販のみで成り立っているケースは、実は少数派であり、多くはSIer/ISVが、販売や営業面で協力する“エコシステム”で成り立っている。ましてや、ユーザー企業との実証実験が欠かせないIoT/ビッグデータ、AI絡みの領域では、パートナーの協力がビジネスのカギを握るといっても過言ではない。(安藤章司)
さくらインターネット 基本に忠実で、協業も推進

さくらインターネット
田中邦裕
社長 「直販のさくら」と呼ばれるほど、直販力が強かったさくらインターネットは、ここにきて売り方に変化がみられるようになった。IaaS/PaaSと技術的なレベルが上がってくるに伴って「従来型の売り方だけでは限界がきている」と、田中邦裕社長は感じている。
もともと、さくらインターネットは「基本に忠実であるべき」という田中社長の考えにもとづき、IaaS寄りのビジネスを重視してきた経緯がある。安易にPaaSだ、SaaSだとレイヤを重ねることには慎重で、共用/専用サーバーやVPS(仮想専用サーバー)、クラウドのIaaSを極める方向に動いてきた。今年に入ってからは、高い計算能力を必要とするビッグデータ分析やAI処理に対応するため、NVIDIAの最新GPUを駆使した「高火力コンピューティング」を開発。IoT/ビッグデータ、AIの“デジタルトランスフォーメーション三種の神器”への対応も着々と進めている。
しかし、一方でIoT、AI絡みのビジネスは、ユーザーの本業を変革するだけに、現実的には事前の実証実験が欠かせない。こうした実証実験で成果を上げられるノウハウをもっているパートナーとどれだけ密接な関係を築けるかが、今後のビジネスのカギを握るとみている。販売代理店的なパートナーではなく、IoTならユーザーの業種業態のノウハウ、AIならば独自の計算アルゴリズムをもっているような「お互いの付加価値を高めあえるようなパートナー」(田中社長)と、積極的に組んでいく考えを示す。従来は直販比率が9割に達していた同社だが、向こう数年でパートナー経由での販売割合が2~3割くらいに高まると予測している。
まとめ クラウド軸に商流が変わる
クラウドベンダーがPaaS/SaaS領域の拡充を進めることで、従来型の手組みのSI(システム構築)の領域を食っていくことも考えられる。PaaS/SaaSで提供されるミドルウェアやアプリケーションをクラウド上で組み合わせて、必要な機能を揃える「クラウドネイティブ」「APIエコノミー」と呼ばれる方式が増えていくに従い、SIの現場は、より顧客のビジネスモデルの変革に特化していく可能性が高い。
ハードウェアやソフトウェアの商流がクラウド経由になっていくと、IoTで集められる膨大なデータもクラウドに集約していく。国内クラウドベンダーは、この商流やデータの流れの中心に居続けられるかどうかが問われている。この流れから外れてしまうと、徐々に過疎化し、エコシステムの枠組みから脱落してしまいかねない。データセンターのなかで、ただ客を待つのではなく、自ら率先してフィールドに出向いて、ビジネスパートナーとともにデジタルトランスフォーメーションの推進メンバーに加わっていく必要があろう。
クラウドベンダー、そしてハード/ソフトベンダー、売り手であるSIer/ISVのいずれもが、クラウドの変化に乗り遅れないように、商流やエコシステムのあり方を大きく見直していくことになりそうだ。