その他
富士通、レノボと統合でどう変わる PC販売の選択肢に異変か?
2016/12/01 20:47
週刊BCN 2016年11月28日vol.1655掲載
富士通(田中達也社長)は10月27日、同社パソコン(PC)事業を世界首位のレノボグループ(ヤン・ユアンチンCEO)傘下に移すため、「開発・設計・製造に関する戦略的な提携について検討を進めている」と、合弁に向けた調整をしていることを明らかにした(11月22日時点)。国内PC市場で富士通は、NECに次ぐシェアを誇るため、この発表を受けて、系列の販売会社や大手流通卸などの混乱が予想されている。とくに、自治体や文教など公共系への導入割合が高いことから、来年度予算を見越した受注活動への影響が出ることも考えられる。国内資本の純国産PCメーカーが減るなか、販売会社が法人向けに販売するPC選択の転換を迫られている。(取材・文/谷畑良胤)
国内メーカー、生き残りに必死 富士通は2016年2月、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)を分社し、PC関連事業の成長に向けた可能性を検討してきた。一部報道を受け公式に発表したプレスリリースでは、「(富士通とレノボグループの)戦略的提携は、富士通のグローバル販売力、顧客サポート力、開発・製造能力と、レノボの卓越したオペレーションを融合し、ダイナミックなグローバル市場で戦うための成功モデルを目指す」と説明している。国内市場というよりは、世界展開を前提に両社のメリットを引き出し相乗効果をねらう。日本政策投資銀行と財政面・戦略面の支援で協議を進めているという。 各種調査会社のデータによれば、「FMV」ブランドを展開する富士通のPC出荷台数は、国内法人市場でシェア2位。コンシューマの店頭市場(BCNランキング)でも、ノートPCではNECに次ぐシェア2位を誇る。しかし、Windows XPのサポート終了に伴う“特需”以降、その反動をいまも受けてPC市場は縮小に歯止めがかからず、富士通も不採算を脱することができていない。 国内の法人と店頭市場に関していえば、NEC、富士通、東芝のPCメーカーが、依然高いシェアをもち、海外メーカーに比べ高価格帯製品が売れている。国内メーカー製PCに使い慣れたユーザーによる買い替えに加え、サポート面の安心感やブランドへの信頼が大きいようだ。一方、海外に目を転じれば、米国と台湾メーカーのシェアが圧倒的だ。PC事業を完全に手放さずにブランドを保つには、海外の大手PCメーカーの海外展開力などに頼る以外にないのが実情だ。 富士通は今後、グループ内のパソコン企画、開発、製造を手がける部門をレノボグループとの合弁企業に移管し、従業員2000人程度が移るとみられている。レノボグループの規模を生かし、部品調達や製造コストの削減、販売エリアの拡大による売上増を図ることで、PC事業を立て直す考えだ。富士通の「FMV」ブランドは、レノボと統合したNECと同様に当分継続することが予想されている。一方、富士通とレノボの新会社がNEC・レノボグループと別のグループになるのかは不透明だ。 富士通系列のPC販売会社の担当者からは、「よりによって現場でぶつかることの多いNECと一緒になるなんて」と感情的な意見が聞かれる一方で、「PCが差異化できる商材でなくなったので、影響は少ない」との見方もあり、意見が分かれる。販社から懸念の声も 販売会社のなかで、今回の合弁に懸念を強めているのは、官公庁・地方自治体・文教に大量の台数を納めるケースが多い地方の販売会社だ。海外メーカーに比べ製品やブランドに対する信頼があり、リプレースに際しても継続して同一メーカーを選択する地方公共団体が多かったためだ。なかでも、国の施策で公立学校を中心に整備された「パソコン教室」は、NEC、富士通の“2強時代”が続いていた。しのぎを削っていた両社がレノボグループに吸収されることになる。 国内の法人向けPC市場は、世界に比べ国内メーカーが高いシェアを獲得している。顧客からの信頼度が高いためだ。富士通とレノボの合弁が決まれば、国内法人向けPCの純国内メーカーとしては、パナソニックやVAIOなどに限られる。こうしたなかで、海外メーカーが国内企業特有の厳しい要求に対応するため、サポートや生産体制などを見直す傾向が強まっている。NECや富士通などのPC製品に対し、顧客の不安が生じてくることを想定し、製販両面で体制を整えている。 昨年11月に分社化した日本HPは、東京・昭島にある国内PC工場を製造キャパシティがより大きい東京・日野に移転し「MADE IN TOKYO」をブランドとして打ち出している。また、日本HPとデルはPCの保守・サポート体制を整備。デルは、宮崎県のサポート拠点で販売パートナー向けの業務を拡充している。コンシューマの顧客や企業、パートナー向けのコールセンターは、両社とも中国から日本に移管している。 富士通は2015年に東芝とソニーから独立したVAIOとの間でPC事業を統合する交渉をしていたとされている。VAIOは、ビジネスパーソンが利用する高機能PCに領域を絞っている。富士通と東芝が既存PCのラインアップと、これまでの市場を維持することを前提に交渉していたとすると、VAIOは自社のポートフォリオに合わず離脱してもおかしくない。この3社の交渉は、破談なのか継続中なのか不明。富士通がレノボとの協議を明らかにしたことから、物別れに終わったと考えられる。 レノボ、NEC連合に富士通が加われば、国内法人PC市場は、大半がこのグループで占めることになる。3社が組むことで、世界的な規模を背景に部品調達や製造コストを削減し収益性の引き上げにつながる。ただ、PC市場が縮小するなかで、PCだけの機能や使い勝手だけをアピールして売れる時代ではない。PCメーカーも、働き方が変化する世の中の動きに合わせ、ソフトウェアやサービスと組み合わせて提案しなければ生き残りることができない時代になってきている。
富士通(田中達也社長)は10月27日、同社パソコン(PC)事業を世界首位のレノボグループ(ヤン・ユアンチンCEO)傘下に移すため、「開発・設計・製造に関する戦略的な提携について検討を進めている」と、合弁に向けた調整をしていることを明らかにした(11月22日時点)。国内PC市場で富士通は、NECに次ぐシェアを誇るため、この発表を受けて、系列の販売会社や大手流通卸などの混乱が予想されている。とくに、自治体や文教など公共系への導入割合が高いことから、来年度予算を見越した受注活動への影響が出ることも考えられる。国内資本の純国産PCメーカーが減るなか、販売会社が法人向けに販売するPC選択の転換を迫られている。(取材・文/谷畑良胤)
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