MVNOと連携、新規事業参入

 宮城県仙台市に本社を置くトライポッドワークス(佐々木賢一社長)は4月下旬、Windows 10搭載のSIMフリー2in1タブレットPC「C109S」の販売を開始した。セキュリティ関連のアプライアンスやクラウド・ストレージなどを提供してきた同社は、「C109S」の販売を機に、次世代通信5Gの時代を見越し、昨夏から始まったSIMの閉域網などを利用した新たな法人向けサービスに参入する。MVNO(仮想移動体通信事業者)やソフトウェア・クラウド事業者と連携し、働く環境を選ばず新しいワークスタイルを支援することで、従来とは異なる企業ネットワークのマネージメントサービスの構築をねらう。「5Gで通信ビジネスに業界変動が起きる」と、断言する同社の嶋村俊彦・戦略商品企画本部長に聞いた。(取材・文/谷畑良胤)

CTEを利用して安価にパソコン調達

 4月下旬に発売した「C109S」は、CPUに「Intel Cherry Trail」ベースの「Z8350」を搭載し、内蔵メモリ/4GB、ストレージにeMMC/64GB+128GBまで増量可能なSDカードスロットを実装。ディスプレイは、フルHD画面で通常のオフィスアプリケーションを快適に起動できるほか、I/Oポートに「Micro HDMI」を装備しているため映像も高画質で出力できる。SIMスロットにファーウェイのME906Jを採用しているが、将来的には国内大手通信キャリア3社の対応モデルも出す計画だ。
 

2in1の端末「C109S」はODMメーカーと連携して開発

 同パソコンは、マイクロソフトが2年前に始めた「China Technology Ecosystem(CTE)」を利用して開発した。CTEは、Windowsを搭載したタブレット端末やスマートフォン(スマホ)をマイクロソフトとODMメーカーが直接契約して生産することで、低価格の端末を市場投入できる戦略的な仕組みだ。トライポッドワークスは、CTE参加のODMメーカーを探し直接交渉。メモリが4Gで、ハードディスクドライブ(HDD)が最低64G、バッテリの駆動時間を7時間に保つことなどをオーダーし改良してもらったという。

 同社が世界的に縮小傾向にあるパソコン端末市場に参入したのは、昨年から国内でSIMの閉域網ができたことなどに起因する。従来、外出先から会社内のファイルサーバーへセキュアに接続する場合は、インターネット経由でVPNを使う必要があった。これがインターネットを通過せずに閉じた接続のまま社内に接続することが可能になった。端的にいえば、社内にSIMルータを設置し、SIMをパソコンに挿すだけで、インターネットを介さず閉じたネットワーク環境として閉域網がモバイル端末で構築でき、外部からもハッキングされない。5Gが普及し、回線速度が上がれば、この利用方法が加速するとみている。

 嶋村本部長は、「SIMを利用した閉域網とクラウドの整備が進んでいる。いかなるCPU端末でも安全でスムーズに社内へ接続でき、働く場所を選ばず業務ができる環境の構築を支援したい」と、LTEの次の5G通信を見越した戦略だと強調する。

 この事業は、MVNOとしてインターネットイニシアティブ(IIJ)やNECネッツエスアイ、ケイ・オプティコムなど7社、ソフト・クラウド事業者としてアール・アイやサイバネットシステムなど7社とパートナーシップを組む。「事業者とレベニューをシェアしてストックの収益を上げるモデルを拡大する」と、嶋村本部長は期待する。
 

嶋村俊彦・戦略商品企画本部長は、
新たな事業の基軸になるパソコン「C109S」の戦略を語った

L2レイヤのパケット制御を

 トライポッドワークスがSIMカードが挿し込めるパソコンを出したのは、端末販売や閉域網への期待以外にも理由がある。今後、通信キャリアから5Gのネットワークが提供されることから嶋村本部長は、「インターネットが登場した頃と同様のインパクトがある。当社は、これを機に『L2レイヤのパケット制御(PCN=Packet Control Network)』をビジネスにする」方針という。

 現在は、パケットやデータを一度クラウドに上げ、クラウド側で処理している。だが、スマートスイッチを配置すれば、クラウドに上げる前のL2レイヤ・レベルで処理が可能になる。こうしたサービスを行うことで、タブレット端末やパソコンなどに限らず、IoT(Internet of Things)といった社外から利用する端末の帯域制御と通信コントロールが実現できる。PCNの関連では、年内をめどに対応端末やIoT端末を提供する計画だ。

 また、社外に持ち出すパソコンやタブレットで使うアプリの制御は、M2Mといったエージェントを端末側に入れる必要があった。何台もある各端末の個別制御は、IT担当者の負担だ。これが、「L2レイヤーのパケット」でコントロールすると、簡単な設定で制御・管理ができオペレーションが楽になる。

 嶋村本部長は、「SIMのデータ通信は、通信キャリアの携帯基地局に着信する。この基地局とMVNOが相互接続する。MVNO側では、企業が社員の携帯する端末の活動やアクセスの範囲をコントロールすることが、L2レイヤの領域で可能になる」と、企業が社員に端末を配布する際に、必要なセキュリティなどの煩雑な設定の負担も軽減できるという。

 従来は、インターネットごしにVPNを張って社内データを外出先から閲覧することで、ハッキングの危険性にさらされていた。昨今のサイバー攻撃などを防ぐため万全なセキュリティ対策は必須だが、とくに中堅・中小企業(SMB)では、IT担当者が不足しており、端末を集中管理したりすることに限界があった。

 同社では、SIMの閉域網や安価なモバイル端末、L2レイヤの制御などで、「SMB向けに『働き方改革』につながる提案をしていく」(嶋村本部長)と、ユーザー企業のニーズを踏まえ、段階的に事業の拡大を目指す。

 一方で、ネットワーク・セキュリティの経験値をもとに、5Gの普及を見越し、他社が本格参入する前に“先手”を打ち、次の成長領域を確立するねらいがある。

 政府の呼びかけで「働き方改革」が打ち出されているが、その解決策の一つである企業の従業員がモバイル端末を持ち歩くリモートワークは、さほど進んでいない。企業側がセキュリティリスクを回避するための策を講じようにも、煩雑な運用・管理ができないため、端末の持ち出しを禁じる程度しか行えないためだ。同社の新規事業は、「安価で簡単」という点を含め、早期に立ち上がる可能性が高い。大手のパソコンメーカーや通信事業者に手の届かない層への普及を期待したい。