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エクストリームデザイン 10分でも利用できるスパコンクラウド 知識不要でハードルが低くなる

2017/03/23 09:00

週刊BCN 2017年03月20日vol.1670掲載

 日本IBM出身者らで2015年2月に設立した技術者集団のベンチャー企業で、スーパーコンピュータ(スパコン)関連のサービス提供を目指していたエクストリームデザイン(柴田直樹代表取締役)が昨年11月、パブリッククラウド上で利用できるスパコンサービス「XTREME DNA」の提供を開始した。製造業や創薬バイオ、IoT(Internet of Things)などで大規模な数値解析が必要な企業や団体向けに利用を促す。柴田代表取締役は「スパコン利用のハードルを下げることができる、他に類をみないサービス」と、国内を含め世界展開をねらう。(取材・文/谷畑 良胤)

Azureを採用、10分でも利用可能

 XTREME DNAは、パブリッククラウド上に仮想のスパコンを展開しその運用監視や、効果的にシステムを利用するための動的構成変更に関するコンサルティングまでのすべてを自動化するサービス。マイクロソフトのクラウド基盤「Microsoft Azure」の仮想マシンを標準で採用。時間単位でスパコンをデプロイ(システム上で利用可能にする)できる。

 スパコンの利用では、高度な技術力をもつアーキテクトのノウハウが必要なのと難易度の高い運用監視がネックになっている。XTREME DNAは、運用ノウハウのテンプレート化と機械学習を活用した運用監視、最適化支援を自動化するサービスを可能にした。柴田代表取締役は、「日本に数人しかいないスパコン・アーキテクトのノウハウをテンプレート化した。アーキテクト不在でも、スパコン環境を利用維持管理できる機能をもっている」と、従量課金で使うパブリッククラウドを利用する感覚で大規模な数値解析ができるという。

 XTREME DNAには、三つの自動化エンジンが備わっている。一つは、クラウド上のスパコンをデプロイするためのデザインパターンの設計を自動化する機能だ。選択したアクションを瞬時にクラウド上に再現できるようにするため、スパコン向けのコンテンツをコンテナ化するなどの工夫をした。二つめは、デプロイしたあと、多くの仮想マシン群と高速ネットワーク、ストレージを一つのシステムのように運用監視・管理できるようにした。三つめは、機械学習を採用し性能を維持するための構成変更や設定変更の自動化だ。
 

柴田直樹
代表取締役

 サービスを可能にしたのは、マイクロソフトがスパコンのインフラ構築に必要な高速CPUやGPU、高速ネットワーク、Linux環境などを時間貸しで提供したことだ。Microsoft Azureを採用したのは、これらが決め手になった。基本OSとミドルウェアには、「Linux Foundation」が推進するスパコン用のOSミドルウェアスタック「OpenHPC」を採用した。

 柴田代表取締役は、「10分間という短時間でも利用できるサービスだ。パブリッククラウドを使う感覚で利用できるため、スパコン利用のハードルを下げることができる」と、これまでスパコンを利用するのに二の足を踏んでいた企業・団体に対し、利用の拡大を図る。

製造向けIoTや創薬がターゲット

 スパコンを大規模な数値解析の用途向けに貸し出すサービスはほかにもある。だが、利用時間の最小単位が1日であったり、従事者1人当たりで課金され、ノード単位の料金が発生するため、高価で利用のハードルが高いとされる。とくに利用のハードルを上げているのは、運用面だ。スパコン利用や数値解析に必要な知識とノウハウをもつアーキテクトが必須。XTREME DNAは、「スパコンに計算させる学習データを作成するなど、難題が多い。こうした利用上の壁を取り払い、スパコン利用の“民主化”を実現したい。複雑な契約は必要なく、AzureのIDさえあれば、簡単に利用できる」(柴田代表取締役)と、機械学習などで、利用者に最適な利用方法をレコメンドできる機能なども搭載した。

 同社は、「XTREME DNAを利用すれば、高額なスパコンのハードウェア、アーキテクトによる設計構築、運用監視の三つの費用を劇的に削減できる」(柴田代表取締役)と、これまでスパコンを利用できなかった層へ拡販する。

 当初のターゲットとしているのは、製造業や創薬バイオの分野で大規模な数値解析を必要としていたり、すでにスパコンや高速計算サーバーの利用者、あるいはIoTのセンシングデータ分析を短時間で実施したい企業、FinTechの演算環境を必要としている金融関連などを想定している。

 現在、XTREME DNAを使う「アーリーアダプタ」の募集を行っている。こうした実証実験などと並行し、本格的に拡販を行う。同社の売上目標は非公表だが、柴田代表取締役は、「HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)クラウド市場と、HPDA(ハイ・パフォーマンス・データ・アナリシス)のマーケットで、5%以上のシェア獲得が目標だ」と、見通しを語る。

 同社はアーリーアダプタなどと導入ノウハウを積み上げ、引き続き機能追加をするほか、適用分野別のSaaS型クラウドでスパコンソリューションを展開する。ユーザー企業・団体だけでなく、企業システムを提供するITベンダーの利用でも、連携を模索する。大規模な数値解析が身近になることで、日本市場で拡大するIoT関連などでの利用が増えていきそうだ。
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外部リンク

エクストリームデザイン=http://xd-lab.net/