国主導の危うさにどこも二の足状態

 この7月から事業会社として本格的にスタートしたダイナミックマップ基盤(中島務社長)は、高速道路と自動車専用道全線でダイナミックマップ(自動運転を実現するための情報基盤)に必要な高精度の三次元地図を2018年中をめどに整備する。産業革新機構を介した実質的に国主導による自動運転の実現に向けて大きな一歩を踏み出したことになる。ところが、現時点でのIT業界の反応は鈍い。どこに課題があるのだろうか。(安藤章司)

201706281923_1.jpg
ダイナミックマップ基盤の発足式典での中島 務社長(写真中央)

 自動車に搭載したAIが人間の代わりに運転してくれるのが自動運転だが、道路には歩行者や自転車もいれば、障害物もある。鉄道のような専用軌道ではないため、今のAIにそれらを自力で認識させるのは荷が重い。そこで自動車のAIとダイナミックマップを共用することで自動運転を実現するのが、ダイナミックマップ基盤の基本的な考え方である。

 ここで気になるのが、IT業界の存在感の希薄さだ。高性能なAIの開発はもとより、遅延なくデータベースを更新し、クルマと道路とで情報を共有する仕組みは、IT以外の技術で実現できるものではない。それにもかかわらず、ダイナミックマップ基盤の主な出資者は官民ファンドの産業革新機構をはじめ、三菱電機、カーナビの地図を開発する会社、それと少数出資で国内自動車メーカーの顔ぶれが並ぶ。IT業界で主導的立場にあるベンダーは見当たらない。

 カーナビ関連の会社は、もともとデジタル地図を作成するのが本業で、ダイナミックマップ基盤への出資には最新鋭でセンチメートル級の測位が可能になる準天頂衛星「みちびき」を活用した超精密測位の技術開発にもつながるメリットがある。しかし、ダイナミックマップ基盤そのものの収益モデルは、いまだ未知数。IT業界が二の足を踏むのは、収益見通しが明確になっていない点を不安視しているからではないか。

 高速道路・自動車専用道には歩行者や自転車がいないため、ダイナミックマップ方式による自動運転の実現可能性は高い。長距離トラックや路線バスの居眠り運転などによる事故は根絶されるはずだ。もともと通行には料金が必要であるため、これに含むか上乗せするかで収益の道も開きやすい。ところが一般道になると、歩行者・自転車、障害物などの情報をセンサで捉え、リアルタイムで共有する高度な仕組みが必要となる。ITベンダーがもつノウハウが不可欠だ。

 ダイナミックマップ基盤の中島社長は、「まずは高精度の三次元地図の制作を進める」ことで、動的なリアルタイム情報はその上に構築していく道順を示している。IT業界はシステム開発を請け負うだけか、積極的に参加するのか。最先端の環境に身を置くことで、技術力を磨くべきである。

 自動運転につながる領域には多くのITベンダーが参入している。例えば自動車向け共通ソフトウェアプラットフォーム(広義のOSに相当)のAUTOSARには、富士ソフトやSCSK、イーソルなどが参入し、コアは精密測量に欠かせない「みちびき」による測位補強サービスに対応した受信機の開発に着手、2018年夏をめどに製品化を目指している。民間で進む分野に国が介入するのは危ういが、IT業界には積極的な参加を期待したい。