地場企業に負けぬ交渉力を

【上海発】中国のローカル市場開拓を狙う日系ITベンダーにとって、現地に精通する地場企業との提携は重要な要素だ。しかし、日中のITベンダーが共同出資で設立した合弁会社に関しては、想定通りに事業が進まないケースが相次いでいる。合弁会社という“箱”をつくっても、その後の運営にあたっては、役割分担や戦略実行に関して意見の相違が生じるなど、壁が立ちはだかるからだ。日系ITベンダーには、主導権を握り合弁事業を推進する能力が求められる。(上海支局 真鍋 武)

 NECは、クラウド事業を手がける中国の合弁会社「日電東軟信息技術(NNIT)」を清算する。9月末にはサービス提供を停止。今後は100%出資のNEC(重慶)信息系統など、中国のグループ会社を通じてクラウド事業の拡大を図る。

 NNITは、NECとITサービス大手の東軟集団(Neusoft)の合弁会社として、2011年5月に設立した。資本金は5000万元で、NECが70%、東軟集団が30%を出資。当初は約70人の体制でスタートし、SaaS、PaaS、IaaSを含む総合的なクラウドサービスの提供を主要事業としていた。しかし、設立から5年を経ても事業は大きく伸びなかった。中国国家工商行政管理総局の企業信用情報公示によれば、同社の16年度業績は、売上高が383万5800元で1億円に満たない。一方、純損益は354万9900元の赤字。従業員数も17人に縮小している。

 同じく、11年7月に東軟集団との共同出資で、ITサービスを展開する「瀋陽東芝東軟信息系統(TNIS)」を設立した東芝ソリューション(TSOL)は、15年に合弁関係を解消。東軟集団が保有するTNISの出資持分40%を買い取り、現在は100%子会社の「東芝信息系統(瀋陽)」として運営している。また、日立グループが大連創盛科技などと共同で11年8月に設立したデータセンター事業の「日創信息技術(大連)」は、資本構成が変更。当初は日立製作所が40%、日立システムズが10%を出資していたが、現在は日立製作所の出資持分5%のみとなっている。

 合弁事業がうまくいかない背景には、相手先が思惑通りの役割を担ってくれるわけではないという事情がある。日系ITベンダーにとって合弁の狙いは、中国企業がもつ通信関連のライセンスや、ローカル市場でのビジネスノウハウ、顧客基盤を活用することだ。しかし、中国企業では、具体的な内容が固まっていない段階で戦略提携などの契約を交わすケースが多い。その結果、“箱”を設けたのはよいものの、実際の運営にあたっては、役割分担や戦略実行について想定外の意見の相違が生じ、思うように事業を推進できないという事態が起こる。例えば、現・東芝信息系統(瀋陽)の北川浩昭・董事長総経理は、東軟集団との合弁解消の理由について、「お互いに売ってもらえる、仕事がもらえると思っていた。このすれ違いが(合弁解消の)根本にあった」と説明している。

 中国企業との合弁事業は、「仲良くやって、彼らに動いてもらおう」という生半可な姿勢では難しい。中国企業の狙いは、必ずしも合弁事業を成長させることではなく、日本企業との提携によって自社のブランド力を向上したり、日本の技術を学ぶことだったりする場合もある。ひとたびこれらを手にしてしまえば、彼らの合弁事業に対する熱が冷める可能性は否めない。

 日系ITベンダーが、合弁のメリットを享受するには、強固な交渉力をもって、主導権を握る必要がある。かつて中国のローカルビジネスに苦戦した日系ITベンダーの総経理は、「日本人は甘い。中国企業と合弁事業をやるならば、もっと入念に準備をしないと、彼らにいいとこどりされてしまう。中国人と真剣に向き合い、戦わないといけない」と警鐘を鳴らす。