国産マシンとして世界標準の座を狙う

 国内初となる量子コンピュータ「量子ニューラルネットワーク(QNN)」が11月27日、一般に公開された。QNNの最大の特徴は、光の量子力学的な特性を利用しており、室温で稼働すること。これまでの量子コンピュータは絶対零度近くまで冷却する必要があるが、QNNでは温度の変動を抑えるだけでよいため、低消費電力と小型化を実現した。開発費用が約1億円という点においても、量産可能なマシンとしての期待が高まる。(畔上文昭)

省エネルギーで省スペース
巨大な冷却装置は不要

201712041803_1.jpg

ImPACT
山本喜久
プログラム・
マネージャー

 「60年かけたリターンマッチ」と、ImPACTの山本喜久・プログラム・マネージャーはQNNに向けた意気込みを語った。日本がコンピュータの開発に着手して約60年。米国に技術力で負けないとしても、市場では後塵を拝してきた。QNNで今度こそ世界をリードするという気持ちが、リターンマッチに込められているのである。そして、その可能性は十分にありそうだ。

 QNNは、内閣府が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として、NTTを中心に、情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)、東京大学 生産技術研究所、科学技術振興機構(JST)で開発した量子コンピュータである。国産マシンとしては初の一般公開。ユーザー登録のみで、インターネット経由で誰でもQNNを利用することができる。

 QNNの特徴は、「光パラメトリック発信器(OPO)」と呼ばれる光(レーザー)の量子力学的特性を用いて計算するところにある。光の量子力学的特性は、室温でも得られるため、他の量子コンピュータが使用しているような冷却装置を必要としない。エネルギーやスペースの面で、QNNには優位性がある。他の量子コンピュータでは、チップに採用した素材の量子状態を保つために、極低温に冷やさなばければならない。米IBMの量子コンピュータも、チップは小さく、ほとんどが冷却装置という状況になっている。
 
201712041803_2.jpg
国産では初公開となる量子コンピュータ
「量子ニューラルネットワーク(QNN)」

コンピュータの心臓部に
1kmの光ファイバーを使用

 QNNが計算回路で使用するのは、1kmの光ファイバーとOPOパルス生成器、OPOパルス結合器。その回路に複数個のOPOパルスを周回させると、OPOパルス群が全体として最も安定した位相の組み合わせをとり、それが解となる。つまり、OPOパルスの数は量子ビットの数そのもの。今回公開されたQNNでは、2000個のOPOパルスを使用するため、2000量子ビットの量子コンピュータということになる。
 
201712041803_3.jpg
計算回路に長さ1kmの光ファイバーを使用(透明ケース内)

 また、最も安定した位相を解とするのは、カナダのD-Wave Systemsが製品化しているアニーリング型のマシンと同様であり、組み合わせ最適化問題など、得意とする分野も同様である。ただし、QNNはニューラルネットワーク型と呼ばれ、厳密にはアニーリング型と区別されている。山本プログラム・マネージャーは、D-Wave Systemsのマシン向けに作成したアルゴリズムが基本的に動くとしつつも、「QNNの特性を生かしたアルゴリズムのほうが、すぐれたものになる」としており、QNN向けのアルゴリズムの開発に注力していく考えだ。

 量子コンピュータを実現するハードウェアには、ほかに米IBMなどが取り組むゲート型があるが、山本プログラム・マネージャーは「ゲート型は周期をみつけるなどの計算に向いているものの、適用範囲という点では組み合わせ最適化問題などの計算が得意なニューラルネットワーク型に分がある」としている。

 量子コンピュータは、広く普及したノイマン型コンピュータの上位互換と思われがちだが、少なくとも現時点では間違いである。業務システムにおけるデータベースの処理を高速化するというような要望に応えるものではない。因子が増えることで、計算処理が膨大になるようなケースに向いている。QNNも、そうした活用シーンが想定されている。

量産マシンとして有望
課題はソフトウェア

 量産マシンの実現性においても、QNNは圧倒的に優位なポジションにある。というのも、光ファイバーをはじめとする計算回路の部品は、NTTがすでに保有している技術を活用したもの。そのため、QNNの開発費用は約1億円程度だという。製品化を実現する時には、多くの企業で購入可能になると期待される。クラウドサービスとして提供される場合でも、コストメリットは優位に働く。

 小型で消費電力が小さく、室温で稼働し、価格も安い。さらに、今回公開されたQNNは2000量子ビットだが、OPOパルスの周波数を変えるなどの対応で、現時点で10万量子ビットの実現がみえている。

 残された課題は、QNNを有効活用するためのアルゴリズムの開発。山本プログラム・マネージャーは「来年の5月以降、さまざまなアルゴリズムを順次公開していく」と語るが、QNNの無償公開にはアルゴリズムの開発を第三者に委ねるという意味もあり、どこまで開発できるかは未知数。ハードウェアとしては世界と戦えるポテンシャルがあるだけに、ソフトウェアでどうリードできるかが大きなカギとなる。