NTTデータグループの国内事業を担うNTTデータは、グループ全体の安定した稼ぎ頭であり続けることを重視する。成熟市場である国内で利益を伸ばすに当たっては、国内外の最新デジタル技術を駆使した提言と実装、成果実現のサイクルを着実に回していくとともに、AIを積極的に活用することでユーザー企業の業務変革、自社の生産革新を推進。並行して社会課題の解決を起点とした官民・業界横断型のビジネスプラットフォームやオファリングを創出し、新しい市場や価値の創出に力を入れる。6月9日付でトップに就任した鈴木正範社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
米関税の影響は今後の動向を注視
――NTTデータの経営方針をまずはお聞かせください。
当社は持ち株会社NTTデータグループの傘下で国内事業を担当する事業会社の位置付けで、持ち株会社の佐々木裕社長と、英国に主な拠点を置いて海外事業を統括するNTT DATA, Inc.のアビジット・ダビー社長との3人による経営体制を組んでいます。海外事業はさまざまな外的・内的要因により利益幅が変動しやすい傾向が見られますので、国内事業は安定した稼ぎ頭であり続けることを重視して、グループ全体の経営の収益バランスをとっていきます。
――NTTデータグループにおける2025年3月期の国内事業セグメントの営業利益率は10.6%で、海外は3.6%でした。国内の利益率が高い一番の要因は何ですか。
国内は公共・社会基盤、金融、法人の三つの主要事業セグメントで安定した利益を確保できていることに加え、最新のデジタル技術を活用した提言と実装、成果をしっかりと顧客に評価いただいていることが要因として挙げられます。
分野ごとの専門的な知見を持つ総勢2700人のコンサルタントがユーザー企業に向けて適切な提言を行い、当社テクノロジーコンサルティング&ソリューション事業部門の技術的裏付けをもって的確に実装し、成果を生み出すこのサイクルを今後も確実に回すことで、質(利益)を伴った成長を持続していきます。
――外部環境の変化の一つに、米国から15%の関税が課される問題がありますが、ビジネスにどう影響しますか。
足元の肌感覚で言えば、米国関税の影響はあまり出ていません。流動的な側面もありますので何とも言えませんが、08年のリーマン・ショックや19年のコロナ禍など、世界規模の経済異変の影響が情報サービス業界に及ぶには1~2年かかる遅効性があるのも事実ですので、事態を慎重に注視していきます。
――生成AIの急速な進歩で、ビジネス環境はどう変わるとお考えですか。
AI活用を巡っては、いわゆるAIエージェントの「Smart AI Agent」を軸に、27年度にNTTデータグループ全体で3000億円の売り上げを目指しており、国内においてもSmart AI Agent事業が成長の重要なかぎになることに違いはありません。航空会社やガス会社のマーケティング活動、メガバンクの法人営業の高度化など、国内だけですでに50件を超える受注を獲得しています。問い合わせベースでは500件を超え、ユーザー企業の関心の高さが伺えます。
顧客やパートナーと分かち合う
――AI活用ビジネスを進めていく上で、何がポイントになりますか。
まずはユーザー企業の業務にAIを落とし込んで、ユーザー企業のビジネスや業務を変革していくところから始める必要があります。ITベンダー視点でAIを捉えるのではなく、あくまでもユーザーとの対話の中から、ユーザー企業が属する業界や業務に役立つAIを開発していきます。ユーザー企業の情報系や基幹系の業務システムの奥深くまで入り込んでいるSIerならではの、業務ノウハウを生かした展開に重きを置いています。
技術面では、国内外の優れたAIエンジンや大規模言語モデル(LLM)を取り入れ、ユーザー企業の業務要件に合致するようシステムを組み上げていく、マルチベンダー戦略を中心に据えています。NTT版LLMの「tsuzumi」はもちろんのこと、米OpenAI(オープンエーアイ)の日本初の販売代理店となるなど、マルチAIでユーザー企業の業務変革を後押しし、成果につなげています。
――システム開発の生産革新にも、AIは非常に有用です。
AIを活用した生産革新は今まさに取り組んでいる最中で、ソースコードの生成や試験工程の自動化といった成果が出始めています。このまま進めば生産革新の名にふさわしい開発効率の劇的な向上が期待できますが、同時にそこで得た利益を顧客とSIプロジェクトに参加してくださっているビジネスパートナー、当社で分け合う仕組みをつくっていくことも重要です。
例えば、これまで100人月かけて開発していた案件が、AIを使うことで50人月でできるようになったら売り上げが半減するのか、あるいは売り上げが変わらなかったとしたら人月が減った分の粗利を当社が独占するのか……。いずれも適切ではないと考えており、AIによって生み出した価値をどのような仕組みで分配するのが合理的なのか、今後整理していかなければならない課題の一つだと捉えています。
――鈴木社長は重点分野の一つに社会課題の解決を挙げていますが、どのようなものをイメージすればよいですか。
ユーザー企業が抱える課題を個別に解決するITソリューションがある一方で、官民を含めた業界横断的なアプローチを想定しています。直近の例で言えば、行政機関への支払いをキャッシュレスで行える国庫金キャッシュレスサービス「KOKO PASS」を21年に始めています。民間では、クレジットカードや交通系電子マネーで日常的に決済が行われていますが、行政と民間がキャッシュレス決済でつながっていないばかりにさまざまな不便が発生している点に着目したことが、サービスを開発する出発点となっています。
業界横断ビジネス基盤の創出に意欲
――業界横断型のビジネスプラットフォームを拡充させるという意味ですか。
異業種や官民をつなげるビジネスプラットフォームは、社会課題の解決に有効な手段の一つだとみています。ほかにも、貿易金融の分野で輸出入者や銀行、保険会社などの情報を業界横断型でつなぐ「TradeWaltz(トレードワルツ)」や、当社が構築・保守サポートを提供している輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)が実績として挙げられます。TradeWaltzについては、金融分野で注目を集めていたブロックチェーン技術をベースに、輸出入者や銀行、保険会社に働きかけて実証実験を繰り返し、当社をはじめ実証実験に参加した複数の企業に出資いただくかたちで、20年にTradeWaltzサービスを専門に手掛ける会社を設立して現在に至っています。
――鈴木社長は金融畑が長いと伺っています。NTTデータの金融事業と言えば地方銀行向けの共同利用サービスや、国内最大級のキャッシュレス決済総合プラットフォームのCAFIS(キャフィス)などを連想します。
いわゆるビジネスプラットフォーム事業で、同業者の非競争領域のシステムを共同利用化してコスト削減を図るといった切り口ですね。CAFISもある種のビジネスプラットフォームだと言えます。私も金融事業に携わっていましたので、共同利用型を使うメリットを地銀顧客に提案していました。ビジネスプラットフォームの構築は当社による先行投資となりますので、初期段階では収益面で非常に厳しい状況に直面しますが、1行、また1行と利用する地銀が増えていくに従い、安定した収益基盤へと成長します。
――公共・社会基盤、金融、法人の三つの主要事業セグメントのうち、鈴木社長は自ら公共・社会基盤を担当していますが、狙いは何ですか。
重点分野である社会課題の解決に当たっては、公共・社会基盤で培ったノウハウをベースに金融や法人の各分野と連携したほうが、横展開しやすいと判断したためです。戦略統括本部を担当していた20年に、行政を含むさまざまな業種と連携した新しい仕組みづくりを担う「ソーシャルデザイン推進室」を立ち上げました。
当時はどこの事業セグメントにも属していない中立的な立ち位置でしたが、公共を起点にしたほうが動きやすいことが分かり、今は公共・社会基盤事業セグメントに入れています。言い換えれば、社会課題を起点に金融、法人、技術担当の各事業部門を巻き込んで新しい仕組みやソリューションを生み出すことで、これまでになかった価値の創出を実現する構えです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「国内の限られたパイを(同業者と)奪い合うようなことはしたくない」と、鈴木正範社長は話す。国内最大手SIerの一角を占めるNTTデータのトップとして重視するのは「国内IT市場を大きくすること」。そのために、過去になかったような業界横断型のビジネスプラットフォームをつくり出し、国内外の業種で培ったノウハウを生かして新しいオファリングやソリューションを生み出す取り組みを加速させる。
国内外の業種ノウハウの共有の一例としては、全世界の銀行の勘定系や保険業務のシステム開発を担当するメンバーで構成する「Tasukiプロジェクト」を23年に立ち上げ、金融業におけるデジタル活用の最先端ノウハウをNTTデータグループ全体で共有している。同様に公共や製造、流通などの業種でも、グローバルで横串となる連携チームの活動を活発化させ、「世界水準の知見やノウハウを国内に還元する」ことで、国内における新規市場の創出に力を注ぐ。
プロフィール
鈴木正範
(すずき まさのり)
1965年、宮城県生まれ。88年、東北大学法学部卒業。同年、日本電信電話(現NTT)入社後にNTTデータ通信(現NTTデータグループ)に転籍。2008年4月、リージョナルバンキングシステム事業本部総合バンキングビジネスユニットBeSTA企画統括部長。16年、執行役員第二金融事業本部長。20年、取締役常務執行役員戦略統括本部長。23年、NTTデータ(国内事業会社)取締役副社長執行役員。25年6月から現職。
会社紹介
【NTTデータ】2023年からNTTデータグループの国内事業を担う。2026年3月期の売上高は前期比1.3%増の1兆9590億円、営業利益は同3.3%増の2120億円、営業利益率は10.8%を見込む。グループ全体の従業員数約20万人のうち、NTTデータに所属する国内従業員数は約4万7000人。