ピー・シー・エー(PCA、水谷学社長)のクラウド基幹業務ソフト「PCAクラウド」のユーザー数が、1万法人を超えた。2008年5月の提供開始から、ほぼ10年の月日を経て節目に到達したかたちだが、水谷社長は、「かなり計画よりも遅れてしまった」と話す。これには、競合ベンダーのクラウド化とのタイムラグが大きかったことが大きく影響しているようだ。PCAクラウドのユーザー数の推移をみると、国産の老舗業務ソフトベンダーが大きなシェアを獲得している中堅・中小企業向け基幹業務ソフト市場の課題が浮かび上がってくる。(本多和幸)

売上高の20%を占める

 水谷社長は、PCAクラウドのユーザーが1万法人に到達したことについて、「通過点ではあるが、意味のある数字」と捉えている。「1万というのは、新しいビジネスモデルを考える土台になり得る最初のマイルストーン」だと考えているのだ。
 
201801301648_4.jpg

水谷 学
社長

 PCAクラウドは、リリース直後から順調に成長し始めたわけではない。ユーザー数が2000法人を突破したのは、リリースから5年後の2013年5月。現在のユーザー数の半分にあたる5000法人に到達したのは、14年4月だ。同社の折登泰樹・専務取締役は、「そもそも最初の1000社に到達するまでに数年を要し、生みの苦しみがあった」と振り返るとともに、「クラウドが日本の法人向けIT市場に浸透するのに時間がかかったことが最大の要因」だと分析する。事実、競合ベンダーもクラウド化の動きは鈍く、中小企業から中堅企業下位層の規模向け基幹業務ソフト市場では、「SaaSとして利用できる製品の選択肢はPCAクラウドくらいしかない状況が続いてきた」(折登専務)という。この選択肢の少なさが、クラウド基幹業務ソフト市場の立ち上がりに対して向かい風になったことは間違いないだろう。

 それでも、折登専務は「先行者利益はそれなりに享受しているし、クラウドビジネスの手応えは年々大きくなっている」と話す。全社の売上高に占めるPCAクラウドの売上高は、約20%まで成長しており、主力商材に育っているといえよう。水谷社長は、「クラウドならPCAという認識が市場に浸透していて、最大のライバルであるオービックビジネスコンサルタント(OBC)をはじめ、競合からの乗り換えが年々増えている実感はある。さらに、PCAクラウドは新しい顧客層を開拓する役割も果たしている」と話す。折登専務は、詳細を次のように説明する。「PCAクラウドのユーザー1万法人のうち、40%は新規ユーザー。従来のPCAのコアユーザー層よりも大規模なユーザーが増えたのも特筆すべきことだ。当社のユーザーの8割は従業員数が50人以下の企業だが、PCAクラウドに限ってはその割合が6割に下がる。複数拠点で事業展開する企業などに、クラウドのメリットを感じてもらっている」。
 
201801301648_3.jpg

折登泰樹
専務

 さらに、16年にリリースした「Web-API」も、顧客層やエコシステムの拡大に寄与しているという。サイボウズの「kintone」との連携を端緒として、すでに40以上のクラウドサービスとPCAクラウドとのシームレスなデータ連携を実現しているほか、そうしたクラウドサービスを扱っているSIパートナーなども新たにPCAクラウドのエコシステムに入ってきていて、「クラウドサービス同士をつなげて、新たな価値をもつソリューションを生み出し、ユーザーのデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していくような、従来の業務ソフト市場とは異なる文化ができつつある」(折登専務)。水谷社長も、「Web-APIにより、PCAクラウドを核とした“APIエコノミー”を拡大していくことが当社の大きな差異化ポイントになる」と強調する。

チャネルの意識改革が不可欠

 PCAクラウドの今後の成長について、水谷社長は「どこかでさらに大きくブレークするタイミングがくる」とみるが、課題も散見される。競合ベンダーのクラウド化が進み、中堅・中小企業向けのクラウド基幹業務ソフトの市場そのものが拡大するか否かはとくに大きなポイントになりそうだ。

 個人事業主や中小・零細企業など、スモールビジネス向け基幹業務ソフトの市場では、freeeやマネーフォワードといったクラウドネイティブな新興ベンダーが登場し、市場にインパクトを与えた。少なからずその影響を受けたトップベンダーの弥生も自社製品のクラウド化を進め、さまざまな外部データと連携しつつ業務ソフトの新しい価値を追求する気運が市場全体で盛り上がった。一方で、大企業や中堅企業上位層向けのERPパッケージ市場でも、多くのベンダーがクラウド利用を現実的な選択肢にすべく製品を刷新している。しかし、中堅・中小企業向けの基幹業務ソフトの市場は、クラウドの製品ラインアップすらまだ十分に整っていない。

 例えばOBCは、同社の製品ポートフォリオをすべて単一のデータモデルで使えるプラットフォームを「Microsoft Azure」上に構築し、主力の「奉行シリーズ」も、次世代製品はこのプラットフォーム上で提供するSaaSモデルを用意する方針だが、リリースは1年~2年後になる見込みだ。現状でも、奉行シリーズのクラウド対応を進めてはいるが、OBCとパートナーシップを結んだパブリッククラウド上での動作保証とサポートサービスの提供などにとどまっており、クラウド製品の再販モデルではない。

 また、OSKは、基幹業務パッケージ「SMILE」のプラットフォームを刷新し、統合グループウェア「eValue」シリーズとの共通プラットフォーム化を実現したが、クラウド化の方針は明確になっていない。同社の宇佐美愼治社長は、「アーキテクチャとしてはクラウドに対応できるようにしているが、SaaSとして提供するとなると、販社のビジネスへの影響が大きい。とくに、親会社で最大の販社でもある大塚商会と綿密に協議したうえで方針を決める必要がある」と話している。SaaSとして提供することになれば、サブスクリプションモデルが基本で、従来のパッケージ販売のフロービジネスからストックビジネスに変わる。事務機ディーラーなどを中心とする中堅・中小企業向けの基幹業務ソフトの販社網がこれを許容できないため、パッケージベンダー側もクラウドシフトを慎重に進めざるを得ない側面があることは否めない。これは、その良し悪しは別にして、既存の販社網が“モノ売り”からの脱却になかなか踏み出せていないことの証左でもあろう。

 PCAの既存販社も、状況はそれほど変わらない。PCAクラウドのビジネスでも、ユーザーが一定期間の利用料金をまとめて払う「プリペイドプラン」が主流になっていて、“フロー的”なビジネスを好む販社が多数派だ。折登専務は、「PCAクラウドがさらに伸びるためには、チャネルの意識改革は不可欠」とみて、エコシステムの変革やブラッシュアップにさらに注力していく方針を示している。