オービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)が、ついに全面的なSaaS化への第一歩を踏み出した。OBCがトップベンダーとして君臨し、国産の老舗業務ソフトベンダーがしのぎを削る中堅・中小企業向けの基幹業務ソフト市場は、クラウド化の動きがいまだに本格化しているとはいい難い。この決断が、市場全体のクラウドシフトのきっかけとなるか。(本多和幸)

奉行シリーズの
一大転換点に

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和田成史
社長

 OBCは2月16日、主力の中堅・中小企業向け「奉行i10」シリーズの会計システム「勘定奉行i10」と給与計算システム「給与奉行i10」のSaaS版を同23日にリリースすると発表した。同時に、先行して提供している小規模事業者向けの「奉行J」シリーズも合わせて、SaaS型で提供する同社の基幹業務ソフト群を、「奉行クラウド」という新たなブランドの傘下で市場に提供していく方針であることを明らかにした。和田社長は、「ついに本格的なSaaSモデルに踏み出すフェーズになった」と話す。価格は、奉行i10の標準的な機能を提供するプランで、勘定奉行が1ユーザー年額15万円から。競合ベンダーのピー・シー・エーは、先行して基幹業務ソフトのSaaS化を進めており、「PCAクラウド」ユーザーが先頃1万社を突破したが、その価格水準とほぼ同等だ。

 これまでのOBCのクラウド化の流れをおさらいすると、端緒となったのは、2014年のこと。まずは、奉行シリーズをIaaSに対応させた。OBCとパートナーシップを結んだパブリッククラウドベンダーのIaaS上に販売パートナーが運用環境を構築するかたちのクラウド対応を打ち出した。後に、OBC自身が「Microsoft Azure」上で環境を構築、運用、サポートまでを手がけるモデルも用意したが、基本はパッケージソフトをオンプレミスとIaaSの両方の利用環境に対応させたというレベルにとどまっていた。

 一方で、従来の基幹業務システム以外の領域では、15年から、独自のSaaS商材「業務サービス」のラインアップを増やしてきた。マイナンバーやストレスチェックへの対応が代表的だが、法改正などにより新しく発生する、従来の基幹業務システムの機能の延長ではカバーしきれない新しい業務を支援するものだ。

 OBCがこうした戦略をとってきた背景には、販売パートナーの既存のビジネスモデルを壊さないことを優先したという事情がある。パートナーにとっては、奉行のクラウド運用を顧客に提案する場合でも、フロービジネスがストックビジネスに変わるわけではなく、ハードウェアがIaaSに変わるだけで、オンプレミスと同じプロセスでビジネスができたわけだ。そして、奉行シリーズでカバーできないニーズに対しては、業務サービスをプラスアルファで提案し、既存のフロービジネスにストックビジネスを積み上げていくかたちでビジネスを構成できた。しかし、奉行クラウドの登場により、これまで奉行シリーズのビジネスはフロービジネス中心だったのが、本格的にストックビジネス化していくことになる可能性が高い。

市場のクラウド化が
一気に進むと読んだ

 同社は昨年の時点で、奉行シリーズと業務サービスを「Microsoft Azure」のPaaS上に構築した統合プラットフォームで融合させ、近い将来、奉行シリーズを全面的にSaaS化するとしていた。また、週刊BCNの取材に対して和田社長は、統合プラットフォームを構成するミドルウェア系の商材の充実をまずは優先させ、奉行Jシリーズを除くSaaS版奉行のリリースは「早くても2018年末頃」との見解を示していた。このスケジュールは、かなり早まったことになる。「当社としてはそれほどイレギュラーな対応をしたという意識はない」(和田社長)としながらも、この判断には、和田社長の経営者としての勘と、データにもとづいた分析の両面が作用しているようだ。

 「昨年の当社プライベートイベント『奉行フォーラム』で1万人の参加者を分析したところ、初めて基幹業務系をクラウドに上げたいというお客様が半数を超えた。また、パートナーの商談の70%がクラウドだという結果も出て、ニーズの高まりがいよいよ顕著になった。基幹業務ソフトのクラウド化は、freeeやマネーフォワードといった新興ベンダーが小規模事業者向けの市場で先鞭をつけ、弥生が続き、彼らの案件がアップサイジングしているという印象がある。従業員数100人程度までの企業に、クラウド基幹業務ソフトが急速に広がっている。また、中小・零細企業がビジネスパートナーとして頼る会計士・税理士も、クラウドでの顧問先とのリアルタイムな情報共有をベースにしたビジネスの改革を進めている。これまでの経験から、新しい技術は浸透率が10%を超えると、ダムに穴があいて一気に決壊するようにものすごい勢いで広がっていくことがわかっていて、そのビジネスチャンスをつかむには、いま奉行クラウドを出すべきだと判断した」(和田社長)。

 ただし、クラウドへのニーズが高まっているとはいえ、ストックビジネス化を進めていくことで、パートナーのビジネスも変化を余儀なくされる。これについて和田社長は、「SaaSである業務サービスの『OBCマイナンバーサービス』は、1万5000社、400万人ほどのユーザーを獲得しているが、すべてビジネスパートナー経由で売れている。奉行クラウドもこの方針は変わらない。ウェブAPIを公開し、オープンなつながる、ひろがる世界を実現することで、パートナーのビジネスチャンスは拡大する。独自のソリューション開発を手がけているパートナーはもちろん、販売系のパートナーであっても、奉行クラウドとAPI連携できる商材を扱っていれば付加価値の高い提案をしていけるような環境をつくっていく」と、対応策を話す。また、「クラウドプラットフォームとしてAzureを採用しているからこそのセキュリティやデータベースの信頼性、パフォーマンスも、パートナーがお客様に奉行クラウドを提案する際の差異化要因になる」と見込んでいる。

 なお、販売目標としては、向こう1年間で3000~4000社の新規ユーザー獲得を狙う計画だ。和田社長は、「5年後には基幹業務ソフトもほとんどすべてクラウド化する」とみており、直近のこの目標も、現実的な目標だと位置づけている。トップベンダーであるOBCの決断そのものが、市場のクラウドシフトを急速に促す結果になる可能性もありそうだ。